外食王たちに学んだ「両効きの経営」

城山三郎 著 「外食王の飢え」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、トレジャー・ファクトリー代表取締役社長の野坂英吾が創業期に希望をもらったという「外食王の飢え」を紹介する。


食べては吐き、食べては吐いて、食事の味をためした─『外食王の飢え』は、そんな「苦業」の末に、ロイヤルホストの全国展開を進めた江頭匡一氏と、同時期に成長を遂げたすかいらーく創業者の横川4兄弟をモデルとした経済小説です。満足に食べることすらできなかった戦後に学んだ欧米の食文化を、高度成長期にかけて一気に広めた彼らは、間違いなく現代の外食産業をつくりあげた功労者でしょう。

私が本書を手にしたのは、トレジャー・ファクトリーを創業しようとしていた1990年代半ばごろ。出店計画を綿密に立て、成長へのイメージはできあがっていたものの、不安は大きく、新聞や雑誌、本などで見つけた心の支えになる言葉を、ノートに書き留めたりしていました。

そんな私に「多店舗展開を目指すなら、読んだ方がいい」と、先輩のベンチャー企業経営者が薦めてくれた本書は、ひとつの産業ができあがっていく過程には、誰かの相当な努力や工夫が必要だということと、そこまでやれば産業を生み出すことができるのだという希望を与えてくれました。

今でこそ、一般的になった「リユース」ですが、当時はまだシステム化など程遠く、買い取った商品をきれいにしないまま陳列することも多々ありました。これでは利用者が増えるはずはありません。

「リユース市場を誰もが認める業界にしたい、産業にしたい」。もしかしたら、外食産業をつくりあげた本書の登場人物に、自分自身を照らし合わせていたのかもしれません。

江頭氏は本書の中では“倉原氏”という名前ですが、彼のすべてを自分でやらなければ気が済まない姿勢と、すかいらーく創業者である横川4兄弟をモデルにした“沢兄弟”のシステマティックに店舗展開する姿勢は対照的な経営手法です。

私はその両者のよいところを経営に取り入れ、創業からしばらく、全商品を自らの目で買い取り査定を行う一方、2店舗目を開店時に、早くもその先の複数店舗運営に備えたPOSシステムの導入に踏み切りました。システムは、本当に必要となったときに使いこなしているぐらいでなければ、武器にはなりませんから。

創業から22年経ち、現在の店舗数は、海外含め156になりました。店舗数が増えるごとに、知名度は加速度的に増して、今では「多店舗あるから、安心して使える」というお客様の声もよく聞かれるようになりました。彼らのように多店舗展開を志したことは、間違いではなかったとはっきり断言できます。

もしあなたが、これから起業したい、事業を伸ばしたいと思っているなら、もしくは自分自身を高めたいという気持ちがあるなら、ぜひ読んでみてください。自分はもっともっと大きなことができることを気づかせてくれるはずです。

title : 外食王の飢え
author : 城山 三郎
date : 講談社文庫 495円(税別) 266ページ


のさか・えいご◎1972年生まれ。日本大学文理学部卒業。95年、神奈川県横浜市に有限会社トレジャー・ファクトリーを設立し、東京都足立区に総合リユースショップ1号店をオープン。2007年、東京証券取引所マザーズへ上場。14年、東京証券取引所第一部へ市場を変更。

構成=内田まさみ

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