人はなぜ、故郷の味にほっとするのか?

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食の乱れが言われ始めて久しいことは、みなさんご存知の通りです。社会の進化、生活習慣の変化、それらに伴って食生活は大きく変わってきました。

日本では大家族から核家族が進み、さらには共働きが増え、その一方で「家事=女性」という考えはいまだ根強く、キッチンで孤独を強いられる女性の話もよく耳にします。仕事も家事も両立したいと思いながらも、ただ体力が、ただ時間が……とストレスに思う人も多いのではないかと思います。

料理は、知識とオーガニゼーション(準備や時間の使い方)でもっと効率よく、もっと豊かな食卓になります。老若男女、働く人にそんなヒントを伝えられたらと帰国時に料理教室を開催していますが、そこで僕が頻繁に使う言葉があります。それが今回のテーマ、「うま味」です。

人間はうま味に服従している

結論から述べます。人間はうま味に服従しています。こんな表現をすると「何を言ってるんだ?」と、ちんぷんかんぷんになると思いますが、これが事実なんです。

なぜこういう表現をするかというと、まず、人間が初めて出会う味、母乳の中にうま味成分が含まれているからです。お母さんが赤ちゃんに飲ませる母乳には、うま味成分のひとつであるグルタミン酸が非常に多く含まれていています。

赤ちゃんは生まれたばかりの段階で、うま味を識別することができる。味覚が、身体に必要な栄養素を取り込むためのシグナルの役割をしているのです。酸味や苦味を嫌う一方で、甘味やうま味を含んだ野菜スープなどはその心地よい味を好むことも知られています。

すると、「うま味成分=母の味」という定義ができると思います。ただ本来、母の味というのは地域に継承されてきた故郷の味なので、つまり「母の味=故郷の味」ということができます。

そこで世界中にある故郷の味について調べてみると、それらにはほぼ同じような食材が使われていることがわかります。それは保存食や発酵食、調味料など……その地に住み着き、地域を形成していく過程で人々が生き延びるために考えた食材たちです。


出典:特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター
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文=松嶋啓介

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