ライフスタイル

2018.02.12 17:30

中古車に600万円かけた小山薫堂が語る「クルマの愉しみ」

街は巨大なミュージアム。一般の人たちが更新する魅力的なストーリーや情報を、運転しながら知る愉しみを!

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第30回。20代後半で購入して7年乗った“レンジくん”を、数年ぶりに恋しく思い返した筆者は、探し出すまでの道のりをラジオ番組で企画。意外にも早速見つかったのだが......。


東京は交通網が発達しているから車なんて要らないといわれるけれど、僕は車が好きだ。毎週土曜日、パーソナリティーを務めるFMヨコハマ「FUTURESCAPE」の収録にはときどき自分の車を運転して行くし、地方出張の際にレンタカーを借りて運転することもよくある。 

初めて購入した車はシトロエンだった。以降、そのときどきのライフスタイルに合わせて、スポーツカーからセダン、四駆まで15台ほどを乗り継いでいる。若いころはシトロエンのようにちょっと手のかかる車が好きだった。特に「クリエイターはメルセデス・ベンツに乗ったら終わりだ」という持論があって、それはあまりにも完璧すぎるがゆえに、乗ったら最後、自分が保守的になるのではないかと怖れていたのだ。

でもあるとき自動車評論家の方から「F1レーサーがプライベートで乗る車のほとんどはメルセデス・ベンツですよ」といわれ、Eクラスのステーションワゴンを買ってみたら、それはもう素晴らしかった。その後、他の車種を経て、いまはGクラスに乗っている。

僕はひらめきやアイデアは自分の脳に蓄えられている知見と、五感から入ってくる新たな情報との化学反応だと思っている。車を運転していると、次から次へと新しい風景に出合ったり、シチュエーションを彩る曲が流れてきたりするので、その化学反応が起こりやすい。いわば「発想の空間」としても活躍するのが車の魅力だろう。

思い出の助手席は譲れない

ところでモノに名前をつけると情が湧く、というのは本当だ。僕は初代のシトロエンを「シトちゃん」と名付けて可愛がっていたのだが、そのシトちゃんが売られる日、ウインカーを点滅させて左に曲がるのを見送るのは、まるで出産から立ち会って一生懸命育てた仔牛が売られていくみたいな切なさと悲哀があった。当時付き合っていた彼女も隣で涙をこぼしていた。

こんな思い出もある。九州生まれで、雪の中をラグジュアリーに走ることに憧れた僕は、27歳でレンジローバーを購入(愛称は“レンジくん”)、7年ほど乗ってから手放した。それから8年が過ぎたころだろうか、急にそのレンジローバーが愛しく思えた。まるで別れた女が恋しくなるみたいに(笑)。

そこで僕は「自分が以前乗っていたレンジローバーを探し出すまで」というラジオ番組のドキュメント企画を考え、番組で予告したのだが、思いがけず「実は私が買いました」というメールが来た。整備手帳に僕の名が記されていたのだ。

その持ち主曰く、レンジローバーは1か月前の雪の日のもらい事故でフロント部分がぐしゃぐしゃになったという。修理すれば走行可能だったが、走行距離はすでに15万km超え。修理代も非常に高く、部品取り用の廃車としてヤフーオークションに出したところ、新潟の男性が12万円で落札した。彼が男性の連絡先を教えてくれたので、その男性に電話すると、まだガレージにそのまま置いてあるという。僕は急いで新潟へと向かった。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN 次代の経済圏を作る革命児」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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小山薫堂の妄想浪費

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