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シネマ未来鏡


自ら執筆した脚本だけに、マクドナー監督の演出もあいかわらずメリハリが効き、冴えている。前作の「セブン・サイコパス」(2012年)で見せたショッキングなカットや演技者の表情を的確に捉えるカメラワークなど、これが長編3作目とは思えない熟達の技も見せている。

作品の舞台となっている「エビング」という田舎町だが、どうやらこれは架空の町らしく、ミズーリ州の地図を探しても見つからない。また、ミズーリ州は、元来がミシシッピ川沿いに発展してきた州であり、かつては旧弊な南部とのつながりが強い時代もあった。その後、西部の開拓が進むにつれて、その玄関口としての位置も占めていた。

地図で見るとわかるが、アメリカ本土ではほぼ中心にある州で(やや東寄りではあるが、西は山間部や砂漠が多いので)、南部の影響と西部の玄関口として、いわばアメリカの歴史を象徴するような州でもあるのだ。

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作品のなかには、巧みに人種やマイノリティーの問題も盛り込まれており、明らかに現代アメリカの縮図として、架空の町であるミズーリ州エビングが描かれているのだが、この舞台を選んだ監督であり脚本家でもあるマクドナーが、イギリスとアイルランドの国籍を持つ“外国人”であることも、この作品を語るうえでは重要な意味を持つ。

マーティン・マクドナーは、両親はアイルランド人で、ロンドンで育ったためにイギリスとアイルランドのふたつの国籍を持っている。兄は、最近作では「バッドガイズ!!」などがある同じく映画監督のジョン・マイケル・マクドナーだ。

映画を手がける前は舞台を中心に活躍しており、イギリスやアイルランドでは重要な劇作家として評価を受けている。長編映画の1作目「ヒットマンズ・レクイエム」(2008年)は、英国アカデミー賞で脚本賞を受賞、本場のアカデミー賞でも脚本賞にノミネートされた。劇作家としてのキャリアと映画での実績で、いわばマーティン・マクドナーの「脚本力」は証明済なのだ。

その脚本の名手であり、“外国人”である彼がミズーリ州の架空の町を描いたのは、かなり意義深いものがある。ミズーリ州では、2014年には、白人警察官によってアフリカ系アメリカ人の青年が射殺されるという事件が起こり、その後暴動や略奪にも発展している。まだ耳新しい事件であり、マーティン・マクドナーの頭のなかにも、この事件の記憶があったことは想像にかたくない。

イギリス人でありアイルランド人でもあるマクドナーが描いた「スリー・ビルボード」の結末は、実はあまりハリウッド的ではない。どちらかというと観客に判断を委ねるようなそれで、ラストに「解答」は潜んではいない。むしろ、作中で展開される登場人物たちの心の動きが、監督であり脚本家でもあるマクドナーの意図したところのようにも思える。

一昨年の大統領選以来、国を二分するかのような様相で揺れ動いているアメリカだが、その国の人々に対して、“外国人”であるマーティン・マクドナーは、このミズーリ州の田舎町という舞台を借りて、「黒白つけるのは重要ではない」という彼なりのメッセージを発しているように思った。

しかし、これだけ世評が高い作品であるのに、マーティン・マクドナーはアカデミー賞の監督賞にはノミネートされなかった。やや不自然な感じもするのだが、これが彼の国籍に端を発するものではないことを信じている。

稲垣伸寿の「シネマ未来鏡」
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文=稲垣伸寿

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