ビジネス

2018.02.26

1個のGPUで30兆、NVIDIAが放つ自動運転時代のAI戦略

大人気の基調講演を行ったNVIDIA CEOのジェンスンファン氏

1月に開催されたコンシュマー・エレクトロニクス・ショー(CES)では、豊田章男社長がぶっ通しのプレゼンテーションを行うなど、自動車各社が参加し、その最先端の取り組みを発表した。

そんな中、フォルクスワーゲンは公式には出展していなかったが、“超法的手段”によって大きな話題をさらった。タネ明かしをすると、同ブランドのCEOを務めるヘルベルト・ディース博士が、“ゲスト”としてNVIDIAの基調講演に登壇したのだ。

NVIDIAの創業者兼CEO、ジェンスン・フアン氏の基調講演は大人気でだった。基調講演は例年入場制限がかかるビッグコンテンツだが、今年はメディアであっても事前に登録した人しか参加できない状況だった。ジェンスンファン氏がカリスマ的存在であることに加えて、NVIDIAの知名度が高まっているからだろう。

そんな舞台でフォルクスワーゲンは、ディース博士の登壇に合わせて、同社のEVブランドとなる「i.D」のコンセプトカー「i.D.BUZZ」に自動運転用ソフトウェア「ドライブIX」を搭載すると発表したのだ。「i.D.BUZZ」のベースとなる次世代プラットフォーム「MEB」は、EV専用プラットフォームであると同時に、コネクティビティを標準的に搭載する点が新しい。

NVIDIAとVW、それぞれの狙い

NVIDIAの視点では、トヨタと勢力を二分するフォルクスワーゲンと強力な連携を敷くことを自動車業界にアピールできる。また、GPUとその上に載るソフトウェアを開発できて、シミュレーションまで達成できる技術があっても、実際に自動車に搭載しての実証はなかなか難しい。

デバイスやソフトウェアを組み込んだり、アクチュエーターを動かすといったシャシー制御のノウハウ、クルマを走らせて得られるビッグデータなど、自動車メーカーの中に蓄積されるものを活用することで、自動運転の開発を加速することができる。

一方、フォルクスワーゲンの視点から見れば、圧倒的な数の提携先を持つNVIDIAに、自動運転を始めとするノウハウが集まるのは間違いない。さらに、うがった見方をすれば、NVIDIAの持つ先進的なイメージがVWブランドに投影されることによって、ディーゼル・ゲートによるイメージの悪化を食い止めることにもつながるだろう。

とはいえ、自動車業界の常識からすれば、世界有数の自動車メーカーであるVWのブランドを率いるCEOが、売上高で40倍近い差(NVIDIAの2017年年次報告69億ドル/VWの2016年年次報告2172億6700万ユーロ)があるNVIDIAの記者発表に“ゲスト”として登壇するのは異例中の異例である。

舞台上では、かしこまった様子のジェンスンファン氏が“Dr.Diess”と呼ぶと、「いつものようにハーバートと呼んでください」とディース氏が笑うなど、自動車メーカーの記者発表の重々しさとは無縁だった。

1個のGPUで30兆ものオペレーション
 
このあたりで、NVIDIAの発表内容についてスポットをあてていこう。今回のCESでは、ゲーミング、AIコンピューティング、自動運転の開発と、同社の強みを大きく3つの分野にわけて、各分野でプラットフォームを提供する戦略を明かした。

なかでも、自動運転向けに新たに開発された「エグザビア」は特筆に値する。

事実、自動運転向けのシステムをアウディと組んで開発した当初は、システムがトランクを塞ぐほどの大きさだった。それだけに、2016年に発表された「ドライブPX」では、片手で持てるほどの大きさの基盤の上に自動運転を制御するシステムをすべて搭載した段階でも、すでに大きな話題になったほどだ。

さらに、「エグザビア」は、わずか1個のGPUで30兆ものオペレーションが可能な演算力を持つのだ。さらに、消費電力を30Wまで抑え、ISO2626の安全基準を満たすなど、実用性の高いスペックに落とし込まれている。
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文=川端由美

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