単なる次世代車を作るのではなく、多様な企業と手を組み、ユーザー視点から快適なモビリティ・サービスを作るための「枠組み」を提供するという点に重きが置かれる。手を組むのは、ライドシェア、物流、輸送、リテール、ホテルなど様々な業種の企業であり、具体的にはウーバーやアマゾン、ピザ・ハットといった協業先を挙げている。
この「枠組み」とは、EVの商用車を提供することに加えて、保険や車載決済システム、ソフトウエアの更新やサイバーセキュリティといったモビリティ・サービスを便利にするために欠かせないプラットフォーム(基盤)を提供することまで含まれる。“クルマを作って売る”ことが商売だったトヨタにとって、メーカーからサービサーになること自体、大きな考え方の変化だ。また、自前主義が色濃い社風だけに、周囲のサービサーと手を組んで基盤を提供するというのも、非常に大きな変化と言っていい。
エンド・ユーザー側からみれば、一台のクルマが乗合バスや、“リアルなメルカリ”のような移動型ショーケースになったり、移動式ホテルになったり……と、そんな使い方ができるようになる提案にはワクワクする。当然、コネクティビティ、シェアリング、電動化、自動化といった次世代モビリティに重要な技術が搭載されているからこそ、実現できる未来像である。
「自動車産業は今、100年に一度の大変革の時代を迎えています。eパレット コンセプトでは、従来のクルマの概念を超えて、サービスを含めた新たな価値が提供できる未来のモビリティ社会の実現に向けた大きな一歩だと考えています」と、章男社長は言う。
実際、より良いクルマを作りたい、すべての人が自由に楽しく移動できるモビリティ社会を実現したいという志を持つことに加えて、今後はサービスまで含めて、次世代のモビリティ・サービスを提供することを目指すという。そこでは前述のように、より使いやすいサービスを提供するために、仲間の輪を広げることも重要だ。
もう一つ、重要なのは“コネクティビティ”というキーワードである。CESの会場でも、今年のバスワードと思われるほどに囁かれていた。それでもあえて、トヨタが取り組む価値があるはずだ。1月1日付けで副社長に昇格した、コネクティッドカンパニーのプレジデントを務める友山茂樹氏に、この分野におけるトヨタの独自性を聞いてみた。
「モビリティ・サービス・プラットフォーム(=MSPF)という言葉の通り、クルマと通信プラットフォーム、ビッグデータを貯めるデータセンタ、我々の車両にアクセスできる権利を与えるAPIをひとつのパッケージとして提供することは、トヨタ独自の提案です。MSPFの要素の一つに、eパレットが存在するという考え方です」
結論めいたことを言えば、トヨタは「信頼のおけるハードウェア製造企業」としての役割を果たしつつ、自動運転車の制御や使い方は自社開発に加えて、様々なサービス提供者が参加できる仕組みを作るワケだ。世界最大級の自動車メーカーであるトヨタから、ようやくこのような俯瞰したビジネスのアイデアが出てきたことは歓迎すべきだ。