新しく入ったユニークな社員たちは、メルトウォーターの競争力を高めていった。コカ・コーラから、競合ブランドの先を越すためのトレンドをつかむ分析ツールはないかと聞かれた際には、要望に応えるソリューションを開発した。
また、独自の活用法を発見した顧客もいる。スウェーデンの窓を扱う会社のCEOは、メルトウォーターの超地域密着型のメディア情報モニタリングを活用し、不法侵入が起きた地域の分布図を正確に把握。被害に遭った地域で重点的にマーケティングを行うために役立てた、とリセゲンに語っている。
リセゲンはこの時期、アフリカの若者たちが、高速インターネットと自分が学生時代に購入したようなパソコンを手に入れたら、どんなことをするだろうか、としみじみ考えるようになった。
「何か世界に大きなインパクトを与えることを成し遂げるためには、自分のコアな専門性に基づいたものでないとダメだと思ったんです」
08年、リセゲンはアフリカ、ガーナの首都アクラに「メルトウォーター・テクノロジー起業スクール(MEST)」を設立した。プログラムの受講料はすべて無料で、アフリカの起業家に、どのように会社を立ち上げるかを教えている。
リセゲンは世界中を駆け回り、協力してくれるNGOや大学、ソフトウェア企業、そして生徒候補に会い、200以上の面談を行った。
現在、このプログラムは、年間6000人以上の応募者から、60人だけを受け入れている。講師たちは、まず基礎から教える。ビジネスメールの書き方、リンクトインで人とつながる方法などだ。その後は、プログラミング、マーケティング、会計、そして投資家へのプレゼンのコースへ進む。
「アフリカは、世界中の企業がソフトウェア開発者を探しに来る場所になる可能性を秘めています」とリセゲンは言う。
「10億人もの人口を抱えていて、今後数十年で、その数は2倍、3倍にもなるんですから。それを脅威と感じる人もいるでしょう。もちろん、人口増をめぐる懸念はあります。でも『才能』の観点から見れば、アフリカは驚異的な規模の人材プールです」
その間にも、リセゲンはメルトウォーターのためにこの人材プールを大いに活用している。最近、モバイルチームに配属するため、MEST卒業生を数人採用したばかりだという。
「あらゆるところに『才能』はある」というというリセゲンの哲学のもと、アフリカの若い起業家たちが育っている。
ヨーン・リセゲン◎1968年、韓国生まれ。幼い頃、ノルウェー人の両親の養子となる。ベルゲン工科ユニバーシティ・カレッジ、アイオワ州立大学卒業。4つのスタートアップを立ち上げた連続起業家。うち2社を売却、1社をIPO。2001年にメルトウォーター創業。現在は日本を含む世界50カ国に拠点を持ち、従業員は約1000人。趣味は、ノルウェーのフィヨルドでのサーモン釣り。