なかでも割合い近い存在である料理人と、美容師やエステティシャンの転職形態を比べてみると、美容関係の仕事に就く人たちは、どうも時代の流れに乗れていない気がする。なぜなのだろう?
例えば、料理人の転職パターンはこうなる。料理人は、お店を転々としながら「どこどこのお店にいた」「だれだれの弟子だった」という箔をつけ、それを実績として「出世」していく。お店にいる人たちもその経歴を意識している。そこには緊張があったり憧れがあったりしながら、職人文化のいい影響が存在する。
ときには同じ出世コースを狙う次の世代までいたりする。そして、最後はカリスマシェフになるか、大型店の一員となるか、または独立して自分の店を持つかだ。たいていはこの3つのどれかに収まる。
どの道をたどっても、過去にいたお店が重要でもあり、いまのお店のホームページでも、「〇〇店にいたシェフの店」と掲載して広告したりもする。雇い主は若手の料理人は転職するものだと思っているし、転職する方はする方で、食べ歩きをしながら、次の働く先を探している。転職では、お店に直談判もできるし、サイトで募集広告を見つけるのも容易だし、たくさんの転職媒体もあり、いろいろ比較検討もできる。
これが美容師やエステティシャンの場合だとどうだろうか? 美容業の人たちも同じなのだろうか。
転職があまり必要ない世界
まず、「どこどこのサロンにいた」「有名エステティシャンの弟子だった」などという店の広告をまず見ない。料理人では比較的多いこの文化だが、なぜ美容師は過去を自慢しないのだろうか? システムとして転職は機能しているのだろうか?
まず、美容師は人伝てでの転職が多い。転職サイトを活用する人はあまりなく、サロン側も超大手以外は求人広告など出さない。料理人と違って、転職の流れは、とても見えにくい状態である。
これにはいくつか、他の業界と異なる事情がある。まず圧倒的に男性が多い料理人の世界に対して、美容業界は女性が大多数だ。他の技術職である歯医者やトリマーなどと比べても、美容だと女性が多い。そのため、転職などせずに、そのまま「寿退社」なども多い。
それに、そもそも転職の意識やリクルートシステムが料理人と異なる。美容の業界では、転職しなくていいのだ。大多数が転職しないとなると、転職サイトが賑わうことはない。腕のいい若手はすでに最初から人気サロンに就職しており、これまたわざわざ転職する必要もない。
中堅の美容師たちも、中堅の料理人が日々食べ歩いて研鑽するのとは違い、毎日違う店で髪を切るわけにはいかないし、フェイシャルトリートメントをいろんなサロンで受けたとしても肌は逆に荒れる可能性が高く、なによりコストが嵩み、いい事はない。