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2018.02.10

真実とデマの間で抗った女性ジャーナリストの最後のプライド

「ニュースの真相」に出演するデニス・クエイド(左)、監督のジェームズ・ヴァンダービルト(中央)、主演のケイト・ブランシェット(右、Photo by Dimitrios Kambouris/Getty Images)

新聞通信調査会が1月に発表した「メディアに関する全国世論調査2017年度版」によれば、信頼度の高いメディアは、1位がNHKで70%。以下、新聞、民放テレビ、ラジオ、インターネット、雑誌の順になっている。2011年を境に各メディアへの信頼下落傾向が見られ、とりわけインターネットは「フェイクニュース」の拡散によって、今回さらに数値を落とした。

ではその分、テレビや新聞が私たちの信頼に応えているかというと、強い安心感をもっている人は少ないのではないだろうか。

半年前の2017年6月、国連人権理事会の特別報告者でカリフォルニア大教授のデービッド・ケイ氏が来日し、調査結果として「メディアが政府から直接・間接的な圧力にさらされている」と指摘したのは記憶に新しい。モリカケ問題をはじめとして「真実」が報道されていないという感触を、多くの人が抱いている。

一方、ジャーナリズムに対する政治的な圧力問題はアメリカでもあまり変わらないようだ。3月末から日本公開となる『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、この危機的状況に警鐘をならすべく、スティーヴン・スピルバーグがメガホンを取った作品として注目されている。

今回取り上げるのは、「ポストトゥルース」や「オルタナティヴ・ファクト」などの言葉が口にされ始めた2016年に公開された『ニュースの真相』(ジェームズ・バンダービルト監督)。ブッシュ大統領が再選した2004年に「21世紀最大のメディア不祥事」と騒がれた事件を題材に、さまざまな圧力に抗して真実を追求しようとした女性ジャーナリストが陥った罠を、本人の自伝を元に描いた話題作だ。

主演のメアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、エミー賞も受賞しているCBSテレビの敏腕プロデューサー。長年報道の第一線で活躍してきた伝説のジャーナリスト、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)を師と仰ぎ敬愛している。

ブッシュ大統領がベトナム戦争時、コネで空軍のパイロットになり実質的な訓練をしていなかったというネタを掴んだメアリーは、大統領選の前に、ダンがアンカーマンを務める番組「60ミニッツⅡ」で取り上げるべく、調査チームを組む。

ブッシュの上官など当時の元軍人たちに次々電話で当たるも、異口同音に「彼は優秀なパイロットだった」と返答され、ことごとくが取材拒否。焦りが出てきた中で、ネットの反ブッシュサイトの関係者を通じて、決定的な証拠を持つ元空軍州兵バーケットに会う。彼からブッシュに関する記録メモのコピーを入手し、同州の空軍兵からのインタビューも取れ、ギリギリの時間まで編集作業をして放映にこぎ着ける展開はスリリングだ。

カールした金髪に目力強めのメイクでテキパキと采配をふるい、常に頭はフル回転で静かに獲物に狙いを定め、チャンスと見るや俊敏に飛びかかっていく勇敢なジャーナリストを、ケイト・ブランシェットがなかなかの貫禄で演じている。

現職大統領の過去の「虚偽」をすっぱ抜いた「60ミニッツⅡ」は大きな波紋を呼び、各メディアがこれを報じ、メアリーたちは勝利の美酒に酔いしれる。だがそれも束の間、保守派のブログに「メモはワードで打たれたもので偽造」と書かれネットで拡散されたことをきっかけに、報道への賞賛はあっという間にデマ疑惑と非難に変わり、事態は思わぬ方向に転がり出す。

68年以前にもメモと同じフォントがあったという証拠を必死で見つけ出したにも関わらず、今度は重要な証言者が前言を翻し、CBS上層部はカンカンに。証拠メモを持っていたバーケットが人に頼まれて事実とは違うことを話していたとわかったメアリーたちは、老齢で病気の彼に無理してインタビューを取り、事態の収束を図ろうとするが既に手遅れだった。
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文=大野左紀子

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