シネマの女は最後に微笑む


見ていると、大統領が昔コネで空軍に入ったとして、それがここまで必死に追求せねばならない重大事なのか? という気もしてくる。おそらくは、そこに絡んでくるらしいブッシュの石油会社とビンラディン一族との関わりこそが、メアリーの狙う本丸だったのかもしれない。

政治的中立を旨とするメディア業界にあって、メアリーがブッシュ再選に強い懸念をもつ、正義感の強い「リベラル派」だったことは明らかだ。だがそのために、自分の見たいもの、知りたい情報に飛びつき、ほんの少し慎重さを欠いたことで、自らの首を締めることになってしまった。さらに、首を突っ込んだネタの背後にどれだけ強大な政治的力が張り巡らされているかを、見抜けなかったことも盲点だろう。

疲れ果てたメアリーがふと検索して出てきた書き込みサイトに連なった、彼女についての目を覆いたくなるような罵詈雑言には、叩いていいものに一斉に群がる匿名の群衆心理のおぞましさを見る思いだ。だが一方のメアリーたちメディアの人間も、彼らを笑える位相にはいないのだ。

「真実のため」という大義名分に隠されたメディアの保身。弱い立場の人への無配慮。病弱な夫への強引なインタビューについて激しく抗議したバーケット夫人の、メアリーに向けた辛辣な言葉は、ネットのどんな罵倒よりも彼女に刺さっただろう。

一方で、メアリーがどこまでも「なぜ?」を手放さないのは、子どもの頃に受けた父親からの虐待が背後にあったことが浮かび上がってくる。「なぜ?」を封じて殴る父には屈しない。絶対に涙を見せない。その反抗心が彼女を強くしてきた。

だからその父が、娘についての取材に応えて悪口を並べているのを知り、「やめて。お願い」と涙ながらに懇願した時、彼女は大きな屈辱に打ちのめされる。メアリーにとって「父」と慕うのはジャーナリストのダンであったのに、その「良い父」は番組降板となり、見捨てたはずの「悪い父」に頭を下げることになるとは、何という皮肉だろうか。

一連の「不祥事」調査のために入った「独立調査委員会」がブッシュに近い保守派弁護士で固められていたのも皮肉だ。その聴き取りの場で彼らと対決するメアリーは、さながらハンターたちに囲まれた手負いの雌ライオンだ。

そこで彼女が最後の反撃に出て、いつもの自分らしさを貫く姿勢に胸を打たれる。断崖絶壁に追いつめられつつ、決して弱みは見せまいと敢然と頭を上げ、相手の目を正面から見据えるプライドの高い女。

たとえ敗北を目前にしても、こんなふうにふるまいたいものだ。

映画連載「シネマの女は最後に微笑む」
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文=大野左紀子

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