バスキア「New Paintings」展、ラリー・ガゴシアン・ギャラリー(ビバリーヒルズ)、1983年。
ガゴシアン氏がアーティストを語る際によく口にするのが「自分が代理をするアーティスト」という言葉だ。アーティストとの強いつながりを感じさせる。中でも、11年に亡くなったサイ・トゥオンブリーについて話すときに、強くそれを感じた。
「私にとっての彼の存在は、私のギャラリーとアーティストという以上に良い友人だった。一緒に旅もしたりした。また、新たにギャラリーがオープンしたときには、彼に作品を描いてもらった。私が彼にたくさんの作品を求めすぎだと言う人もいたけど、実際彼は素晴らしい画家の上、描くのが早かったんだ。必ずしも時間をかけて描く画家が良い画家というわけでもないしね」。その口調には、長年の戦友を失ったような寂しさが漂っていた。
時間がきたので、撮影のために階下の部屋に移る。事前の打ち合わせですべてが綿密に決まっている。ガゴシアン氏の背景の絵画も候補は3点、それぞれの作品が写った際に明記する著作権帰属先もギャラリーの広報担当からあらかじめメールされてきていた。こちらのカメラマンが試し撮りした画像も、スタッフの目の前で削除させられる徹底ぶりだ。
世界中に散らばる個性的なスタッフたちをどうやって束ねているのかと聞いた。
「確かにギャラリーの看板に載っている名前の人にクライアントは会いたがるけど、人に任せるのは重要だね。幸い自分は優秀なスタッフにも恵まれている。それぞれのオフィスのトップと、ほぼ毎日連絡を取り合っている。そして、2年ほど前から年に4回は各ギャラリーのトップ全員が集まる会議も行っている」とごく普通の組織人としての答えが返ってきた。
数多くの美術界の大物を顧問などに迎えているが、その際も経歴と同じくらい、ギャラリーの文化と相容れるかを見ると語っていたのが印象的だった。
ジェフ・クーンズ「New Paintings And Sculpture」展、2013年。
最後に彼の師匠にして現代美術界のレジェンドであるアート・ディーラー、故レオ・キャステリの言葉を引用しながら、氏にとっての美の基準を聞いた。キャステリ曰く、「美的感性とはマルセル・デュシャンとピエト・モンドリアンのが融合したものだ」。これをガゴシアン氏に言うと、「それはとてもうまい表現だね。でも、私の場合はそう簡単に言い切れないかな。あえて言うとすれば、私が代表しているアーティストたちだろう」
そう言うと、撮影を終えたガゴシアン氏はニヤリと笑い部屋をあとにした。さりげない言葉にも、明確なプロフェッショナリズムが感じられた。
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