ファッションディレクターの森岡 弘とベテラン編集者の小暮昌弘が「紳士淑女が持つべきアイテム」を語る連載。第11回は、「ブルネロ クチネリ」のレザージャケットをピックアップ。
小暮昌弘(以下、小暮):イタリア屈指のラグジュアリーブランド、ブルネロ クチネリのサファリジャケットですね。素材がスエードで、薄手のものが使われています。
森岡 弘(以下、森岡):実は、この製品、春夏向けのコレクションの新作なんです。
小暮:欧米、特にヨーロッパのブランドでは、スエードのアイテムは、秋冬ではなく、春夏の時期にコレクションに加えられることが多いですからね。
森岡:春先に着るのはもちろんですが、スエードは、避寒地、つまりリゾート地に出かけるときに着るのです、彼らは。湿度の問題もあると思いますが、初夏でも着てしまうんです。半袖のアイテムと合わせると日本では少し着にくいですが……。
小暮:でもこれはまるでシルクのような肌触りですから、肌離れもよさそうですし、スエードでも着やすいでしょうね。
森岡:革はそうとう上質なものを採用していますからね。サファリジャケット自体、カジュアルなアイテムなんですが、佇まいは単に“カジュアル”とは表現できないほど、洗練されている。高級感が素材や手の込んだ仕立てから立ち上ってくる感じがします。
小暮:ブルネロ クチネリはスーツやジャケットもつくっていますが、カジュアルな雰囲気の服に真骨頂を発揮するブランドですね。ラグジュアリーブランドとはいっても立ち位置が違うブランドです。
森岡:確かにイタリアブランドでも特別なポジションにあるブランドですね。
小暮:ブルネロ クチネリは、中部イタリア・ウンブリア州のソロメオ村に本拠を置くブランド。私がこのブランドのことを知ったのは『イタリア人の働き方』(内田洋子、シルヴィオ・ピエールサンティ著 光文社新書)で。この本の中で、この会社の経営方針を「金銭的な利益追求とはせず、人間としての尊厳を保つこととしている」と紹介し、世界に類を見ない会社だと書いてありました。
森岡:ソロメオ村に本社機能を置き、地域を復興させたばかりか、サッカー場や劇場をつくり、村の景観まで修復してしまったのです。カルチャーというか、崇高な精神性が感じられるのもこのブランドの大きな特徴ですね。
小暮:2013年には次世代の職人育成のための学校をこのソロメオ村に開いていますし、昨年は、ドイツのキール・インスティチュートから「グローバル経済賞」を得ています。イタリアだけでなく、世界で評価されているのです。
森岡:ファッションブランドもいまや社会的責任が重視される時代です。そういう時代性を感じさせるブランドの筆頭でしょうね。もちろん経営者ブルネロ・クチネリ氏のそうした考え方がデザインに投影されています。そこにシンパシーを感じてこのブランドを買われるお客様も多いのでは。