マネー

2018.02.02 08:00

孫正義、WeWorkへの即決40億ドル出資の舞台裏

WeWork共同創業者のアダム・ニューマン(左)とミゲル・マッケルビー(右)

WeWork共同創業者のアダム・ニューマン(左)とミゲル・マッケルビー(右)

「頭がいい奴とクレイジーな奴。戦いに勝つのはどちらだと思う?」
advertisement

ソフトバンクの孫正義は、WeWork経営者の2人にこう投げかけた。古い枠組みを壊し、新たな経済圏を作るのは、いつも異端児たちのクレイジーなストーリーだ。


ウーバー、エアビーアンドビーに次ぐ企業価値200億ドルをつけた「WeWork」。新しいオフィスの概念はもはや大企業をのみ込み、世界の働き方を変えようとしている。


孫正義が会いにくる。
advertisement

その日、WeWorkのCEOアダム・ニューマンは、落ち着きなくニューヨークの本社オフィスを歩き回っていた。

ソフトバンクのトップで、日本で最も裕福な資産家であり、世界で最もパワフルな投資家のひとりである孫正義が、WeWorkにやってくる。孫は2時間を費やし、社内を見学したいのだという。ところがすでに1時間半、到着は遅れていた。

「マサは到着するなり腕時計に目をやり、『悪いが、12分しか時間がない』と言ったんだ」と、ニューマンは振り返る。その言葉通り、社内ツアーはきっかり12分間で終わりを告げた。しかし、孫はニューマンに自分の車に同乗するチャンスを与えた。ニューマンはプレゼン資料をつかんで車に乗り込み、ふたりは、後に200億ドルの価値を生むドライブに出かけたのである。

孫が惚れ込んだ “実行力”

孫はニューマンにプレゼン資料をしまうように言うと、iPadを取り出し、投資のアウトラインをスケッチし始めた。

「あの規模の会社にしては評価額が高過ぎると思いました。しかも、簡単に模倣されかねない事業だとも」と、孫は振り返る。

「けれど実際、誰も真似できなかった。言うのは簡単、しかし形にするのは難しいアイデアだったんです。WeWorkは、彼ら自身が有言実行であることを証明していた」。車が目的地に着くころ、孫はiPadのスケッチの下に自身の名をサインし、その隣に線を引いてニューマンにペンを渡した。「いまでも思い出すと鳥肌が立ちます」。そう、38歳の元イスラエル海軍士官、ニューマンは言う。

“iPadの契約書”は、弁護士の手を経て2部構成の取引となった。ソフトバンクは、30億ドルをWeWorkに直接出資。うち13億ドルは既存の従業員株の公開買い付け、17億ドルは新規株式の形をとる。

それとは別に14億ドルを出資し、これはWeWorkがアジアに進出するための3つの新たな事業体に振り分ける。「WeWork Japan」「WeWork Pacific」、そして「WeWork China」だ。ニューマンのチームがオフィススペースの建築と運営を担い、ソフトバンクが現地のさまざまな関係者に対応する。

こうしてWeWorkの企業価値は200億ドルに跳ね上がった。不動産、ホスピタリティ、テクノロジー業界をまたぐ同社の評価額は、ホテル経営のヒルトン・ワールドワイドとほぼ同等。商業不動産大手のボストン・プロパティーズや、ソーシャルメディア界の寵児であるスナップをもしのぐ。

いま現在、米国のスタートアップで200億ドル以上の評価額がついているのは、ウーバーとエアビーアンドビーだけだ(政府機関向けビッグデータ分析のパランティアには、WeWorkと同等の評価額がついている)。

WeWorkはオフィス会社だが、所有する不動産はゼロ。ウーバーやエアビーアンドビーと同様、WeWorkも本質的には仲介業者だ。不動産オーナーから卸値でスペースを借り、そこに柔軟な賃貸契約、洗練されたデザイン、インターネットや受付、郵便物の受け取り、清掃といったサービス(無料のコーヒーとビールもある)を付加することで、面積当たりの賃料単価を上げている。

通常、法人の不動産契約は複数年のコミットメントが必要だが、WeWorkなら月単位で契約ができる。会員企業は不動産に対する圧倒的なフレキシビリティを得られるのだ。


ロサンゼルスのWeWorkオフィス PROMENADE

2010年にニューヨーク市内の1カ所からスタートし、現在、世界52都市に163カ所を展開(15年末の3倍)。2900人超の従業員が15万人の会員のために約100万平方メートルのスペースを管理しており、料金プランはフリーアドレスで月額220ドルから。大人数用のカスタマイズプランも充実しており、50人規模であれば月額2万2000ドルから。複数フロアを用いた数百人単位の入居も増加している。17年度の収益予測は13億ドル(営業利益率は約30%)で、株価売上高倍率(PSR)は、従来の成長企業を上回る。
次ページ > 200億ドルの評価額は高過ぎなのか?

文=スティーブン・ベルトーニ 翻訳=木村理恵 編集=杉岡 藍

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事