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2018.02.02

孫正義、WeWorkへの即決40億ドル出資の舞台裏

WeWork共同創業者のアダム・ニューマン(左)とミゲル・マッケルビー(右)


そして、フロアレイアウトの最適化を叶えるのが、既存のWeWorkオフィスから得られる膨大なメタデータ。ヒートマッピング技術を用いて追跡された人の動きと利用状況はWeWorkデータセンターに蓄積され、それらを基に共有エリア、デスク、会議室の面積や配置の最適なバランスが見出され、かつ更新されていく。

倍増するWeWorkの事業規模は価格優位性ももたらした。10年以来、ニューマンたちは4500トンの資材を組み、100万平方メートルのガラス壁をつり下げ、80万平方メートルのオーク床材を敷き、1万2000の電話会議ボックスを組み立ててきた。さらにガラス壁を固定する何千個ものビスほか、多くの資材を自前製造に切り替えた。今後は家具や照明なども内製化したいという。

「いわゆる“大家さん”は場所をお金に変えるだけだが、僕たちは違う。WeWorkはいわば、iPhoneをつくっているんです」と、最高成長責任者でWeWork専属マッド・サイエンティスト、デイブ・ファノは例える。

テクノロジーによる徹底した効率化とバルク買い、内製化により、会員企業が新しいデスクを1台追加導入するための料金は、この1年だけで45%も下がっている。

“コミュニティの力”が育んだ ふたりの創業者

WeWorkの名物に、巨大な規模の「サマーキャンプ」がある。17年は15カ国から2000人の従業員をイングランドの田園に飛行機で呼び寄せ、3日間にわたり、ダンスやアクティビティを楽しませ、会社のプレゼンを見せ、たっぷり酒をふるまった(3000人のWeWork会員も途中から参加した)。1200以上のキャンプ用テントやトレーラーハウスが草原に出現。フードトラックやビールトラック、数十のバーが設置され、参加者のTシャツの背中には、「We」のロゴマークが躍る。

これを「過熱気味のスタートアップによる壮大な金の無駄遣い」だと片付けるのは簡単だ。しかし、ニューマンは「このイベントこそが、WeWorkの本質」だと言う。

「“文化”が僕たちの財産。サマーキャンプは“一緒に働く仲間は計り知れないほど大切だ”と彼らに伝えるひとつの方法なんです。そして、周りにはWeWorkのミッションを信じるチームがいるのだ、と」

デザインホテル経営のモーガンズ・ホテルの元CEOで、現在WeWorkの副会長を務めるマイケル・グロスは言う。「アダムとミゲルはふたりとも、“コミュニティの力”を誰より知っている。彼らはそれに助けられることで、生き抜いてきたからだ」。

ニューマンとマッケルビーは世界の端と端で育ったが、ふたりの子ども時代で共通しているのは、定住と縁がなく、コミューン色が強かったことだ。ニューマンはイスラエルで医師の両親のもとに生まれたが、両親は幼いころに離婚。ニューマンは人生の最初の22年間を13の地で暮らした。一時期は母親が医師をしていたキブツ(イスラエル特有の共同体)で過ごした。

重度の失読症だったニューマンは、小学3年生になるまで読み書きができなかったが、イスラエル海軍のエリート士官プログラムに入ることができた。軍務に服した後は、当時プロのモデルだった妹のアディ・ニューマンと暮らすため、ニューヨークに移り住んだ。

マッケルビーは、オレゴン州ユージーンにあった、お金より信念を重んじる活動家シングルマザーの共同体で育てられた。家がよく変わり、連邦政府の財政援助によって用意された食糧の箱が玄関の前に届く子ども時代だった。マッケルビーは年に一度、チェーンレストランのビュッフェを食べるのが楽しみでしかたがなかったと言う。

「争って自分の分を確保する必要がなく、好きなだけ食べられるのは、特別なことだったから」。身長約2mで運動神経抜群だったマッケルビーは、オレゴン大学で大学の花形スポーツとハードな建築学の専攻を両立させた。

ニューマンとマッケルビーは、ニューヨークで共通の友人を通じて出会い、育ちや競争心の強い性格をきっかけに意気投合。ニューマンは当時、ベビー服の会社「エッグ・ベビー」(ヒット商品はひざパッドを縫い込んだベビーパンツ「クローラーズ」)を立ち上げており、そのオフィスの家賃をまかなうため、一部を又貸ししていた。

建築家としてアメリカン・アパレルなどの顧客の店舗をせっせと設計していたマッケルビーに、ニューマンは、安い物件を賃貸し、スペースを分割してオフィスとして高く貸し出すというアイデアを聞かせた。

話は早かった。ニューマンは自社オフィスのオーナーを説得し、ブルックリンにある彼の物件の1フロアを借り、マッケルビーとふたりで“地球に優しい”がコンセプトのコワーキングスペース「グリーン・デスク」を始める。

これがヒットした。ニューマンとマッケルビーはすぐさまマンハッタンに進出しようとしたが、ブルックリンのビルの空き部屋を埋めることを優先しようとするオーナーと折り合わず、最終的には自分たちの持ち株を300万ドルでオーナーに売却。その売却益を、キブツとシングルマザーの共同体からの学びを生かした、マンハッタンのコワーキングスペース事業に投入した。不動産と文化の融合だ。

7年後の現在、ふたりの持ち株は合わせて43億ドル相当になっている。そして、史上最大の“働く人々のコミュニティ”──WeWorkが生まれようとしている。
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文=スティーブン・ベルトーニ 翻訳=木村理恵 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN 次代の経済圏を作る革命児」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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