ビジネス

2018.02.02 10:00

メンズ展示会ピッティで見た、護られた「お祭りビジネス」の可能性


同様に前回からの継続出展を果たしていた京都のブランドで、手織りのネクタイやマフラーを展開する「KUSKA」は、メイン会場の中の通路に面したポップアップショップで小規模のテーブルを構えていた。代表の楠泰彦氏は、テイストを考えると別のセクションがよいが、希望の場所での展開はなかなか難しいと語る。


オールハンドメイドにこだわる京都ブランド「KUSKA」の展示ブース。Pittiの場での受注も獲得した。

どちらのブランドの展開方針としても共通しているのは、海外展示会をピッティのみに絞っているという点、ピッティを短期的な利益創出の場ではなく、ブランド認知拡大や中長期的な商談への足がかりとしての投資と捉えている点だ。ピッティが狭き門だからこそ、そこへの継続出展が国内外での取引拡大への「信用」のベースとなる、と両代表は言う。

また、継続出展と実績の積み重ねによって、主催者からの信頼を獲得することで、ブースの拡大や、より注目度の高いセクションでの展開が可能となる。革新性はないが、ピッティという文化、そして既存のファッション業界のやり方に基づいた、正攻法戦略なのだろう。

フィレンツェの要塞に欠けていた文脈

ルネサンス終焉の16世紀から時が止まったような街並みのフィレンツェで、立派な塀のバッソ要塞をメイン会場にして行われたピッティは、「お祭り」らしいワイワイした空気が流れていたが、そこには何かが欠けていたようにも思える。それは世界のいま、そして未来という文脈だ。

ピッティと同時期に、米ラスベガスで開催されていたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)や、米オースティンで3月に開催されるサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)といったようなテック関連の「お祭り」に関しては、揺り戻しや、自省の動き、少なくともそれ自体に対する、クリティカルな視座が提示されている。

例えば、CESに関しては、米テッククランチの記事では、大企業のイノベーションの壁についての言及があった。一方、SXSWについては、WIREDの記事で、断絶、フェイクニュース、AIなどの世界情勢の文脈を考慮したインサイトが提示されていた。

ピッティにおいては、機能素材という観点を除いては、ファッションとテクノロジーの関係性など、業界を超えた動きについて、筆者自身はあまり発見できなかった。

今回ティー・マイケル氏らが示した越境コラボレーション企画は、より複雑な対話、インスピレーションや視点を提示するきっかけになったのかもしれない。今年のピッティの新しいセクションとして示された「MAKE, The New Makers」は、クラフトマンシップを再評価し、若手のクラフトブランドを展開していた。こういった動きが、ピッティの“ルネサンス”を形成し、その文脈においてメイド・イン・ジャパンの「TOOT」や「KUSKA」がより評価されることも期待できる可能性がある。



忠誠心の強いブランドおよびバイヤー、そしてイタリア政府という要塞に護られ、ピッティを中心とするメンズファッションビジネスの短期展望は明るいかもしれない。だからこそ、この「お祭り」における、アーティスティックで人間的な交流、人間の創造性の潜在能力が発揮される、コンセプトづくりやものづくりといった、ファッション業界のリアルな現場が、もっと発信されていく必要があるように感じる。

そのアンバサダーとなるのは、もしかしたら自己表現に長けた、ピッティの孔雀たちなのかもしれないが。

文=MAKI NAKATA

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