ファッション専門家でも、トレンド・ウォッチャーでもなく、レポーターという立場で初めてピッティという現象を観察した結果、これは「テーマパーク」だという印象を受けた。これまでに何度か訪れたことのあるニューヨークや東京のファッション展示会と比較して、エンターテインメント性が強い。テーマパークに類似したエンターテインメント要素を3つあげるとすると、テーマ性、空間設計、そしてキャラクターだ。
まずテーマ性とは、徹底的にディレクションされたアーティスティックな世界観である。今回のピッティのテーマは「映画」で、会場の広場が映画祭のように演出され、14セクションのそれぞれが、一つの映画であるかのように、巨大なパネル広告やポストカードなどのビジュアル演出が作られていた。
これらの世界観にかかわる掲示は、どの参加ブランドのパネルよりも目立っていた。経済発展省(MISE)およびイタリア貿易振興会(ICE)からの助成金で、ホスピタリティ、プレス対応、広告宣伝などの費用が賄われているからこそ成せる演出かもしれない。
2つめの要素、空間設計とは、メイン会場であるバッソ要塞内の39か所の建物に散らばる14のセクションだ。一度全体像を把握してしまえばさほど複雑ではないが、カタログの地図や展示会専用アプリのガイドはわかりづらい。しかし、大音量の音楽や、人だかり、ランダムなサインに導かれての発見はポジティブな経験となる。
多くのブランドは、よくある展示会同様、会場内にブースを設置しているが、プロモーション目的で常設店舗のような個別のショップ空間を設けていたブランドもある。イタリアの大手「GAS」はクラフトマンシップというブランド価値の演出のため、ペインターや陶芸家などの若手アーティストの招いて、インディゴやデニムを使ったワークショップを実施していた。GASのプレス担当は、ピッティはこうしたブランドの世界観を国際的なオーディエンスに提示する場であり、商談の場ではないと明言した。
3つめの要素、キャラクター。これは、Pitti Peacocks(ピッティの孔雀)と形容される際立った服装の参加者たちだ。ちなみに、3万6000人の来場者の中で、雑誌やスナップに取り上げられるようなスタイルの人々はごく一部。実は多くの人は無難な服装をしている。だからこそ、気合が入った孔雀たちが際立ち、かつ、彼らが群れをなして集まることで注目の的となるのだ。
“Pitti Peacocks=ピッティの孔雀”と呼ばれる参加者たち(photo by Getty Images)
これらの要素に加えて、ピッティをテーマパークのように感じた最大のポイントは、「皆、なんとなく楽しんでいる」という雰囲気があったからかもしれない。メンズウェアギークたちが、年2回(1月と6月)のリユニオンで、様々なアトラクションを楽しんでいるという雰囲気があった。テーマパークのように、「来たからには楽しむべき、白けるなら出て行ったほうがいい」という世界のようにも思えた。
ベテランが仕掛ける新たなコラボ空間
「ピッティが、形骸化してきて、もはや刺激的なものでなくなってしまった。だから今回、ピッティ主催者側に新しい提案をしました」
インタビューでそう打ち明けてくれたのは、デザイナーのティー・マイケル(T-Michael; 本名 Michael Tetteh Nartey)氏。ピッティの新企画の一つである「5 CURATORS/ONE SPACE」のメイン・キュレーターだ。
マイケル氏は、ガーナ・アクラ出身。10代でロンドンに渡り、サヴィル・ロウなどで経験を積んだのち、23歳でノルウェー・ベルゲンに移住した。テイラーの経験を土台に立ち上げた自身のブランド「T-Michael」を展開する一方、仕立技術と日本の機能素材を組み合わせたレインウェアブランド「Norwegian Rain」のデザイナーも兼務する。