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2018.02.01

企業を成長させる数学的な法則 | 出井伸之

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏


AIが進歩することについては、『シンギュラリティは近い』の著者レイ・カーツワイル氏が「収穫加速の法則(Law of Accelerating Return)」という言葉で表している。この先、テクノロジーがさらに進化すると、収穫逓減の法則と収穫逓増の法則、さらにメトカーフの法則ギルダーの法則が作用し、進歩のスピードは今まで以上に一気に加速するだろう。

当然、マネジメントも大きな影響を与える。例えば、中国は共産党を中心とした、中央集権体制を敷いている。一方で、今後の社会の礎になるだろうブロックチェーン技術とは、中央集権を置かないという反対の前提にある。しかし、一党独裁だからこその決断や行動の早さは、これまでに既に証明されてきた。中国が、ブロックチェーンによりどう変わり、どのようなマネジメント体制になるのか。非常に興味深い。

もちろん日本も、社会システムの見直しを迫られるだろう。複雑系の社会では、コミュニティも程よい規模が適する。京都のような中小規模の地域社会を中心に据えることで、地方を優先させるビジネスモデルができると日本は活性化するのではないだろうか。そういう意味で日本はチャンスの時期だと思う。

法則は常に上塗りされる

カーツワイル氏の言う「収穫加速の法則」における社会で、新しいビジネスモデルを創り出すのに大切なことが2つある。

ひとつは、保守的な発想をやめること。今、最も加速度的に変わろうとしているのは、金融業界や銀行だ。しかし、全国に張り巡らされたATM網など、日本はこれまで巨額の投資を進めた結果、世界的にも進んだインフラが存在し、それが変化の壁になっている。だが、今を守る発想を捨てる勇気を持たなければ、次に進むことはできない。勇気を出して、保守を打ち破れなければ、日本は現代の恐竜になってしまうだろう。

もう一つは、個人の価値だ。世界中の国や地域に広く人脈持ち、多くの業界の見識があり、これらの法則が理解できた上で、それらを的確に組み合わせ形づくることのできるような人が、新たなビジネスモデルを生み出す媒介として、高く評価される社会になるだろう。私たちの周りには技術の進歩に合わせて、基本の法則が存在する。これをどう組み合わせて使うかが人間の知恵だ。

先日、『ジャコメッティ 最後の肖像』という映画を観た。彫刻家アルベルト・ジャコメッティが、何度も何度も絵を描いては上から絵の具を塗り消していく姿を見て、まさに技術の法則と同じだと感じた。常に新しいテクノロジーが開発され上塗りされていく。次々に生まれる法則をどう組み合わせ次々と新しいビジネスモデルを生み出せるかが、人間のクリエイティビティであり醍醐味でもある。

いつの時代も世の中には数学的な法則が存在し、産業や社会そのものが技術の法則によって成り立っていることを、子どもの教育レベルから認識させ理解できる環境にしていくべきではないだろうか。今、音楽を聴きながら、私はそう思っている。

インタビュー=谷本有香 構成=細田知美 撮影=藤井さおり 取材協力=Quantum Leaps Corporation 撮影協力=512 CAFE&GRILL

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