マネー

2018.02.03

「夢のお金」はどこにもない、仮想通貨の矛盾

Photo by Tomohiro Ohsumi / Getty Images

1987年に公開された伊丹十三監督の映画「マルサの女」は、脱税のため現金の流れを隠そうとする人々と、その流れを突きとめようとする国税査察官の攻防を描いている。

パチンコ屋では現金にマジックで印を付け、「ラブホテルで、証拠の残るクレジットカードで払いたがる奴がいるか!?」と喝破するマルサの女。これらは、現金が「価値」以外の情報を持たず(=「匿名性」が高く)、受け渡しとともに支払が完了する(=「ファイナル」になる)という性質を反映している。

「いつもニコニコ現金払い」という言葉が示すように、商売をする立場からは、このような現金の性質にはありがたい面がある。

例えば、駅の売店で、改札口から駆け込んできた見知らぬ人が、千円札でタバコを買ったとしよう。その5分後に別の人が駆け込んできて、「さっきの人が使った千円札は、10分前に私から盗んだものです。だから返してください」と言われても困るし、それをいちいち心配しなければいけないようでは、安心して商売ができなくなってしまう。

そうした心配をしなくても良いように、現金については、かねてから学説により「占有とともに所有も移転する」という考え方が打ち立てられ、「動的安全」が強く保護されてきた。

一方で、このように動的安全が保護されているということは、逆に言えば、落としたり盗まれたら一番危ないのも現金だということになる。国内ではもっぱら現金を使っている人々も、海外旅行に行く時だけは大量の現金は持ち歩かず、クレジットカードを使う人も多いのではないだろうか。クレジットカードなら、落としたり盗まれても、支払を止めることができるからだ。

仮想通貨の一つの特徴も、その「匿名性」(正確に言えば「仮名性」)にある。仮想通貨に適用されている暗号技術は、その多くが「匿名性」を作り出すためのものである。それだけに、現金同様、「落としたり盗まれたら非常に危ない」ものでもある(仮想通貨を預かる先の「鍵」の管理が、他の手段にも増してきわめて重要になるのも、このためである)。

クレジットカードやデビットカードといった他の「キャッシュレス手段」とは異なり、「匿名性」を作り出す代償として、リスクも負っているのである。仮想通貨に投資をする人々は、このことを十分に認識しなければいけないし、関係者もこの点について、きちんと説明することが求められる。
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文=山岡浩巳

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