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2018.01.31 12:00

映画「デトロイト」がアカデミー賞から無視された理由

映画「デトロイト」のロンドンプレミアに登場したキャスリン・ビグロー監督(右)と俳優のジョン・ボイエガ(Photo by Tristan Fewings/Getty Images)

映画「デトロイト」のロンドンプレミアに登場したキャスリン・ビグロー監督(右)と俳優のジョン・ボイエガ(Photo by Tristan Fewings/Getty Images)

第90回アカデミー賞のノミネートが発表された。いちばんの栄誉とされる作品賞にノミネートされたのは、以下の9作品だ。

「君の名前で僕を呼んで」(ルカ・グァダニーノ監督)
「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(ジョー・ライト監督)
「ダンケルク」(クリストファー・ノーラン監督)
「ゲット・アウト」(ジョーダン・ピール監督)
「レディ・バード」(グレタ・ガーウィッグ監督)
「ファントム・スレッド」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)
「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(スティーブン・スピルバーグ監督)
「シェイプ・オブ・ウォーター」(ギレルモ・デル・トロ監督)
「スリー・ビルボード」(マーティン・マクドナー監督)

このなかで、すでに日本で公開された作品は、「ダンケルク」(2017年9月9日公開)と「ゲット・アウト」(2017年10月17日公開)。「スリー・ビルボード」が2月1日、「シェイプ・オブ・ウォーター」が3月1日と、それぞれアカデミー賞をあて込んだ公開となっている(残る5作品はアカデミー賞発表後に公開予定)。

ファミリー向けのお正月映画の公開が一段落したこの時期、例年、アカデミー賞がらみの作品が劇場を賑わす。今年もそのひとつに、キャスリン・ビグロー監督の「デトロイト」があった。1月26日から公開される予定だった同作のポスターには、“本年度アカデミー賞最有力!”という惹句が、大きな文字で踊っていた。

ところが、である。日本公開直前の1月24日(現地時間23日)に発表されたアカデミー賞のノミネートでは、「デトロイト」はただの1部門も選考されなかった。まったくと言っていいほど無視されたのである。

さすがに日本の配給会社も、2日間ではポスターはつくり替えられなかったとみえて、公開初日の劇場には、“本年度アカデミー賞最有力!”の赤い文字が入ったポスターがそのまま貼られていた。ちなみに、その後に見た作品のホームページでは、さすがに迅速に対応したのか、その惹句は発見できなかった。

「デトロイト」は、1967年のデトロイトの暴動からちょうど50年目にあたる、昨年8月にアメリカで公開されたが、監督がイラク戦争を舞台にした「ハート・ロッカー」(2008年)で女性初のアカデミー賞監督賞に輝いたキャスリン・ビグローであったためか、当初からアカデミー賞の有力候補として喧伝されていた。映画に関する批評も好意的なものが多く伝わってきた。



異変が起きたのは、12月11日にノミネート作品が発表された第75回ゴールデングローブ賞だった。アカデミー賞の前哨戦とも呼ばれるこの賞で、「デトロイト」はどの部門でもまったくノミネートされなかった。ゴールデングローブ賞はロサンゼルス地区で公開された映画を対象に、ハリウッド外国人映画記者協会が選ぶ賞だが、ここで「デトロイト」は失速したのである。

この作品は、1967年7月23日から27日にかけて米ミシガン州デトロイトで起こった、州兵まで投入され、死者43名、負傷者1189名を数えた「デトロイト暴動」を舞台にした作品で、トランプ大統領の誕生以来、レイシズムの嵐が吹き荒れるアメリカにあって、まさに時宜を得た作品でもあった。
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文=稲垣伸寿

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