負けないために「休む」 自衛隊から学ぶ戦略の本質

(Photo by Kuni Takahashi/Getty Images)


負けないためにこそ、休まなければならない。

この目からウロコの視点に触れて思い出した一冊があるので、それも紹介しておこう。下園壮太氏は、陸上自衛隊初の心理幹部として、東日本大震災で隊員たちのストレスマネジメントにあたった人物だ。下園氏の『心の疲れをとる技術』(朝日新書)は、忙しい毎日を送る人にぜひすすめたい本。流行りのマインドフルネス本も何冊も読んでみたが、即戦力で使えるのはむしろこの一冊である。

下園氏によれば、長期戦を戦うためにポイントとなるのは、「疲労のコントロール」だという。疲労は本人が気づかないうちに3段階のプロセスで蓄積されていく。

第1段階はいわゆる普通の過労段階だが、下園氏は第2段階を「別人化のはじまり」、第3段階を「別人化」と呼んでいる。「別人化」というのは、本人は意識できていないのに周囲は明らかに異変に気がついているという、きわめて危険な状態のことだ。

「別人化」に陥らないための防衛策を簡単に紹介しておこう。

軍事の分野には、その時代の最先端の知見や技術が凝縮しているものだが、自衛隊にもこれまでの任務で得られたさまざまな知見が蓄積されている。

たとえばイラク派遣の際は、自衛官にとってのストレス解消法である「酒」と「運動(体を動かすこと)」を封じられてしまったという。イスラム教国だからアルコールはないし、砲撃される危険があるため運動も制限せざるを得なかった。これを受けて下園氏は、活動的な「動」のストレス解消法だけでなく、「静」のストレス解消法を持つことも提唱している。

「静」のストレス解消法とは、読書、音楽、囲碁将棋などの頭脳ゲーム、庭いじり、料理などのこと。瞑想のようなマインドフルネスもここに含まれる。こういった「静」のストレス解消法のいくつかを普段から身につけておくことが大切だという。ちなみに下園氏は女性が得意な「相談(おしゃべり)」も、ぜひ男性にも活用してほしいと述べている。

「相談」といえば、自衛隊には交代制で任務についている部隊が交代する時に行う「任務解除ミーティング」なるものがある。要は「引き継ぎ」だが、ここでの大切なポイントは、「隊員の困っていることを聞く」ことにあるという。困っていることを小集団で共有することで、個人がムリを抱え込むことを防ごうとしているのである。この仕組みはすぐにでも職場で取り入れることが可能だろう。

日本は先進国のなかでもとりわけ自殺者が多いことで知られる。2012年に15年ぶりに3万人を切ったとはいえ、それでも2万を超える人々が毎年自ら命を絶っているのだ。これはもはや「戦場」と呼んでもいい異常事態だ。

誰もが「結果を出すこと」を求められる世の中だが、その世の中がすでに平時ではないことを忘れてはならない。大切な誰かのためにも、ぜひこれらの本で「戦場」を生き延びるための知恵と技術を身につけてほしい。

読んだら読みたくなる書評連載「本は自己投資!」
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文=首藤淳哉

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