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2018.02.02

「あらゆる枠を超えた新結合」大学発・研究開発型ベンチャーの未来

東京大学エッジキャピタルの投資メンバー。多様なバックグラウンドを持つ投資プロフェッショナル8人の強力なチームが、強いコミットメントで、投資先の経営・ファイナンス支援を行う。


155億円規模の新ファンド組成

UTECはこの絶好の機会にさらに取り組みを加速させる。同社は18年1月、設立以降最大となる155億円規模で「UTEC4号投資事業有限責任組合(UTEC4号ファンド)」を立ち上げた。この春までに200億〜250億円規模としていく方針だ。

投資・支援活動は、これまで同様に、研究者とともにゼロから会社を立ち上げるシード投資、アーリーステージの企業への投資を行い、経営層と二人三脚で経営する立場のリードインベスターとなることを軸にする。それに加え、株式公開・M&A直前のレイター投資まで一貫したファイナンスができる規模になった点が新たな特徴だ。

「あらゆる種類の『新結合』を数多く起こしたい」

郷治が強調したのが、技術革新だけでなく、組織論まで含めた幅広い範囲の新機軸を表す「新結合」という言葉だ。その理由は同社のビジョン、投資方針から紐解ける。UTECは新ファンド組成を契機にビジョンを次のように刷新した。

「サイエンス/テクノロジーを軸に、資本・人材・英知を還流させ、世界・人類の課題を解決するためのフロンティアを開拓する」

そして投資方針は「優れたサイエンス・テクノロジー」「強力なチーム」「グローバルな市場や課題」の3点。郷治曰く、「これらの掛け合わせが大学発ベンチャーには必要だ」という。

郷治が強調するのは「日本には優れたサイエンスとテクノロジーがある」という点だ。21世紀での自然科学系ノーベル賞の受賞者数は、アメリカ55人に次ぐ、16人で2位。PCT(特許協力条約)に基づく国際出願件数も、16年を見ると、アメリカ56595件に次ぐ、45239件で2位。

「ただ、優れた科学技術が、特定の大学だけに紐づいているケースが多い。我々が実行したいことは、東京大学はもちろん、それ以外の全大学、全研究機関、全企業と連携しながら、インパクトのある基礎研究の成果、技術を見つけ出すこと。そして、必要に応じて、大学の枠や地域を飛び越え、アカデミアと民間企業、政府を超えて、いい技術をつなぎ合わせて『新結合』して、より良い形で社会に実装していくことです」

UTECは東京大学を軸に、国内10大学と投資活動や産学連携部門との協業などで連携。さらに、海外大学などグローバルの連携体制の推進。大企業との技術連携も進めている。

「次に、強力な人材による、強力なチームであることもより重要になります」

郷治がその象徴的な成功事例として挙げるのが、特殊ペプチド創出技術を応用した創薬基盤を提供するペプチドリームだ。東京大学大学院の菅裕明教授に、経営経験の豊富な窪田規一を経営者候補としてUTECが紹介。06年に二人で共同創業し、菅の技術に基づく独自の創薬開発システムを知財として守りながら提供するビジネスモデルを構築。13年にマザーズ上場、15年に東証1部上場、現在の時価総額は4500億円を超えた(17年末時点)。そして現在、世界の大手製薬会社17社と共同開発・研究を実施するなど、世界で活躍している。

優れた技術の目利きだけでなく、研究者と関係を築き、経営者を探して、チームビルディングする──、会社づくりからはじめ、事業シナジーの創出も行う必要がある投資領域だからこそ、これまでの経験と実績、ネットワークの蓄積がより生きるという。

「優れた技術を持つ研究者と、大企業や外資系コンサルティング企業出身者などの優れたマネジメント人材の組み合わせによるチーム。さらに、他大学や企業の研究者や技術も参画するという『人材、組織としての新結合』は今後必須条件になると思います」

アジア、アフリカも投資領域に

「グローバルな市場、課題」という投資方針でも、UTECは独自の展開に挑戦するという。郷治は次のように説明する。

「世界・人類の課題解決を目的とする社会的に意義のあるベンチャーへの投資ということは、投資先がアジア、アフリカ市場での活動も多くなる」

現在の投資先も、非可食バイオマスを用いてバイオ燃料、化学品などを開発するグリーン・アース・インスティテュートは、マレーシアの政府系ファンドからの出資も受けている。指紋認証式の決済サービスなどを開発するリキッドは、インドネシア最大の財閥サリム・グループと合弁会社を設立。土壌・日照センサーで最適な培養液量を解析し、自動で供給するIoT農業システムを提供するルートレック・ネットワークスも、東南アジア進出をしている。

「シンガポールをはじめ東南アジア諸国でも、“ディープテック”がトレンドになっている。現在、シンガポール国立大学や政府のベンチャー支援機関とも連携に向けて関係強化をしています」

UTECがこうした新結合にこだわりを持つには理由がある。「我々も、1998年に制定された投資事業有限責任組合というファンドの仕組みと、1877年に設立された東京大学という学術機関が、04年に『新結合』して生まれたベンチャーキャピタルのイノベーションだったからです」

日本の大学発・研究開発型ベンチャーへの投資・支援の先駆者として、同業界を牽引してきたUTEC。同社は今後、新ファンドを通じて、国内外を問わず、そして大学、企業も問わず、優れた科学技術を中心に、様々な新結合を起こす「イノベーション・ファクトリー」として、日本経済にインパクトを与えていくだろう。

UTECの実績


455億円(累計ファンド総額)
UTECは、これまで1号(2004年組成、約83億円)、2号(09年、約71.5億円)、3号(13年10月、約145.7億円)、4号(18年1月、約155億円)、総額455億円の4つのファンドを組成した。

9社(IPO数)
テラ(09年、ジャスダック・ネオ〈当時〉上場)、モルフォ(11年、東証マザーズ上場)、ペプチドリーム(13年、東証マザーズ、15年東証一部上場)などの実績。

10社(M&A数)
GLM(17年、香港オーラックス)、ネイキッドテクノロジー(11年、ミクシィ)、フィジオス(13年、グーグル)、popIn(15年、百度)などの実績。
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text by Forbes JAPAN photographs by Toru Hiraiwa

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