これからのリーダーに「チャーミングさ」が必要な理由

プロノバ 岡島悦子氏


中竹:岡島さんの『40歳が社長になる日』には「新時代リーダー10の要件」として「物語力」が挙げられています。私もこれが大切だと思うのですが、岡島さんがリーダーに「物語力」が必要だと思う理由を教えてもらえますか。

岡島:先が予測できない時代に、これまでの成長とは違った「非連続の成長」を目指さなければならないので、ロジックに基づいた「正確性」で人を動かすことはできなくなっていると思います。つまり、「これなら絶対ヒットするから一緒にやろう」と言ったところで、それは正確には立証できないので、部下たちはついてこないんです。

代わりに必要なのが「物語力」です。「これをやったら面白いから一緒にやろう」と、面白い、ワクワクする、を作り出すストーリーが重要になる。「正確性」から「納得性」への移行ですね。カリスマリーダーが「これをやろう」と決め、メンバーが実行する、という時代ではもうありません。先の議論にあったように「集団天才」という枠組みで、何をやるか、ということすら議論してつくっていくので、新しいものを一緒につくっていく仲間の「内発的モチベーションに刺さるストーリー」、つまりWhyの納得性が必要になってきています。

そのときに、「誰」が言うかも非常に重要ですよね。リーダーの、人としての「チャーミングさ」も大事だと思うのですが、これは鍛えられると思いますか?

中竹:先天的に得意な人と苦手な人がいるのは間違いないですが、後天的に訓練できる部分もあると思っています。先天的に苦手な人は、天才的なエンターティナーにはなれないかもしれませんが、ある程度トレーニングで鍛えることができると思います。

岡島:結局のところ、チャーミングさすらも、努力で獲得可能だと私も思います。チャーミングな人は「相手への想像力が高い」わけですよね。おっしゃるように先天的に得意な人が努力と思わずやっていることを、分解してロジックで理解して鍛えることで、ある程度のレベルのチャーミングさは担保できるのではないかと思います。

相手が顧客でも従業員でも、適切なセグメンテーション、最適な単位でまとめる。その単位にいる人たちの「プロファイリング」、すなわち共通の関心事、存在意義、価値観を知り、何が相手の「心のスイッチ」になるのか想像する、そしてコミュニケーションとしてそれを届ける、といったプロセスが必要です。

中竹:私は、まさにここが「スタイル」の源泉になるところだと思っています。共感力、物語力は「スキル」なので、トレーニングで高めることは出来る。ただ、先天的な要素が強いので、「努力はしているけど、自分はあまり得意ではない」ということをちゃんと認識し、周りにさらけ出すことができることも非常に重要です。すると、そこにストーリーが産まれて、「これも含めて自分のスタイルです」とちゃんと相手に伝えると、「不器用だけど、チャーミングな人」と思われるようになります。

口下手でも、リーダーとして部下たちを巻き込んでいる方も多くいらっしゃいますが、そうした人たちに共通しているのは、自分をさらけ出していることです。

岡島:「スキルをスタイルで凌駕する」、これからのリーダーに非常に重要になってくる論点ですよね。

不得手なことや出来ていないこと、つまり「余白」こそが相手を巻き込んでいく武器となる。私がお手伝いしている企業でも、例えば、「口下手で、テクノロジーオタクだったCTOが、CEOになっちゃった」というようなケースではその要素が強いです。

「物語力」が弱いのではなく、そこに「想い」はあるがコミュニケーションが不得意なんだ、ということをメンバーが理解し、「助けてあげたくなるCEO」と思われるようなケースです。その原点は、中竹さんのおっしゃる「弱みをさらけ出す」こと。ただ、その根底には強みに対する「信頼」も必要であり、それも含めた「スタイル」なのでしょうね。

現在はチーム経営の時代なので、こうしたCEOの良さを引き出せる人が優れた参謀となって、チームがうまく機能する場合もあります。うまくいっている企業は、リーダーと参謀が補完関係にある場合も多いと思います。

中竹:出来ないことがあっても、素直に認めて、それをさらけ出すのが良いと思います。格好悪さを認めている人は、タフに見えるもの。資質として弱い部分があっても、そこを自分の「スタイル」に変えれば良いのです。

岡島弱みに光を当てることが強みになる、ということですね。共感力の弱いリーダーにとっては福音ですね(笑)。特に、IT業界にはコミュニケーションに苦手意識の強い経営者も多いので、リーダーとしての「スタイル」が多様で良いのというのは、すばらしいインサイトだと思います。

勝敗や結果のわかりやすいスポーツ分野では、データ分析も進みやすく、科学的な仮説検証がタイムリーかつスピーディーに行われてきていると思います。その結果、メンバー選抜と育成、リーダー育成、というビジネス領域では定量化が難しいと言われてきた領域へのインサイトが数多くあり、今回その事例をたくさんご紹介いただけました。ジャンルは違えど不確実な時代を導いていくという意味で、どちらの業界でもリーダーの存在はますます重要になりそうですね。

文=岡島悦子 写真=小田駿一

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