逆境育ちの方が伸びしろがある 「10年後に活躍する人」の見分け方

日本ラグビーフットボール協会 中竹竜二氏


岡島:私が取締役として指名委員会メンバーをしているアステラス製薬や丸井グループのように、既に先進的なサクセッション・プランニングに着手している企業もあります。

現在のマネジメント階層とはまったく別軸で後継者候補の母集団形成をしているので、従業員数万人企業でも、100人ほどの母集団の中に26歳くらいの若手が入っているケースもあります。

サクセッション・プランニングも「育成」から「配置」へ、という流れになってきています。若手のうちに抜擢し、修羅場に配置して送り込む、そこで意思決定の場数を踏ませる。「不確実な中での意思決定の機会」を提供することによる成長でしか、次のリーダーは輩出されないことがわかってきています。

そういった後継者候補の人たちをどうやって選ぶのか。絶対的な解はまだないのですが、私が注目しているのは「伸びしろ」。その「伸びしろ」の一つのキーは「素直さ」だと思っています。固定概念や成功体験バイアスを外し、変化を受け入れ、新しく学ぶ「学習能力の高さ」という意味での素直さです。

著書では「新世代リーダーの10要件」を書いていますが、中でも、「変化適応力」や、未知の経験に出会った時に自分なら達成できると思える「自己効力感」、「チャレンジ精神」はとても重要だと思います。



中竹:
スポーツ選手の場合、「伸びしろ」を測る方法はシンプルだと思います。私は、同じ能力の選手がいたら、いわゆるエリート校出身ではなく、環境が悪い中で育ってきた選手を選ぶようにしています。

普通は皆、同じレベルの選手なら強豪校出身者を選びがちですが、充分な環境で育って来て今、同じパフォーマンスならば、それはむしろ「伸びしろがない」ということですよね。逆に、悪環境でもここまで成長してきている選手は、もっと優れた環境を提供すればもっと伸びる可能性がある、それこそが「伸びしろ」の本来の定義です。

岡島:なるほど! それ、ものすごく面白いですね。今時点が同じ能力ならば、お膳立てされてきていないのにそこまで成長できた人を選ぶということですよね。

中竹:はい。10年後に活躍する選手を選ぶのであれば、「強豪校出身ならポテンシャルが高いはず」といった安易な選択をしないことです。それが伸びしろの根本的な定義のはずなのに、つい安易な方向に行ってしまうことが多いように思います。

岡島:人は「類似性の法則」から自分と似た人を選びがちですよね。企業でも、自分と近い経歴、同じ部門や大学出身者、を選ぶ傾向は顕著です。しかしながら、最近の先進企業では、実は経営者も後継者として「変わった人」を選ぼうとしているんですよ。社内で変人扱いされている人、熱狂的すぎてある意味パラノイアとみられるような人。そうでないと、今あるビジネスモデルからかけ離れた非連続な成長を実現できません。

成功の確約されない挑戦をする、24時間意思決定し続け、しかも上場企業の社長ともなれば公人としての振る舞いも求められる、非常にタフで孤独な仕事。ある意味、報酬に見合わない役割でも、「どうしてもこの価値を創りたい」と新しいビジネスモデルや変革を熱狂的につき進める熱量や突破力が必要なのです。お利口なコンピテンシーが全部そろっている人じゃなくて、素行が悪いけど熱中しすぎる人の方が、将来性が高いように思います。

中竹:すごいですね。それは岡島さんが関わっている企業だけではないのですか?

岡島:そうした選択をする企業が少しずつですが増えてきています。非連続の成長のためには「異能」が必要だと考えている現社長の場合ですね。

でも、やはり多くの人は学歴や職歴が近い、とか、性格やスタイルが自分と似ている人を選んでしまいがちだと思います。そんな中で、「迷ったら環境が悪い中で育って来た人を選ぶ」という中竹さんのスタイルはすごく示唆に富んでいます。

ロシアのバレエ団でも、入団させる子供を選ぶとき、どちらか迷ったら地方から出てきた子を選ぶ、と聞きました。これも、中竹さんがおっしゃるように、伸びしろに期待しているからなんでしょうね。エリートだけが選ばれるのではないという別のロールモデルとしての波及効果もあると聞いています。

そういえば、私が熱烈にサポートしているベンチャー経営者のほとんどが逆境育ちです。あまり意識していませんでしたが、彼らはいわゆるストリートスマート。周囲を巻き込む熱量と、「稼ぐ」ことへの嗅覚や心肺能力が非常に高い。確かに、逆境や辺境でここまで来ているのだから、経営資源を手にしたこれからの伸びる可能性は無限大とも言えますね(笑)。

次回はもう少し具体的に、「10年後のリーダー」に求められる力について話してみましょう。(第3回に続く)

文=岡島悦子 写真=小田駿一

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