最も賢い戦略は、考えられる障壁に備えておくこと。だが、エリック・プラテンバーグの人生を見れば、障壁をあらかじめ特定するのは至難の技だと分かる。
米国でコンブチャ(日本では「紅茶キノコ」と呼ばれる発酵飲料。昆布茶とは異なる)が主流になる30年前から自前のコンブチャを作る母親を見ていたエリックは、その健康効果を気に入り自分も長年この飲み物を作っていた。しかし、これをビジネスチャンスととらえることなく、自己開発企業の最高経営責任者(CEO)・講演者としての仕事を楽しんでいた。
20年後の2009年、有機健康食品事業を立ち上げたいと考えた妻のミシェルと友人のジェイミー・ダネクが、コンブチャ・ママ(Kombucha Mama)を設立。最初の4年で農産物直売所や地元小売店に販売を広げ、2013年には大規模な事業拡大を決めた。
エリックはその事業計画を作成し、最初の資本を集め、「ハム・コンブチャ(Humm Kombucha)」としてブランドを刷新。また、その事業に深く興味を引かれ、適材が見つかっていなかったCEOのポジションに自ら就任した。
同社の販売拠点は2013年、オレゴン州の100か所のみだったが、今年は1万1000か所に拡大。同社製品はターゲット、ウォルマート、セーフウェイ、コストコなどで販売され、国内で最も成長が早いコンブチャブランドとなった。
予想外の痛い展開
エリックがハムに正式に加わる前の2010年、9人の米連邦捜査員が自宅に家宅捜索に入った。それまで税務調査を受けたり、税金関連の手紙を受け取ったりしたことは一切なかったが、彼は捜査員から脱税の疑いで調査対象となっていることを告げられた。
米国税庁(IRS)との間の協議は複雑で、4年続いた。エリックは、弁護士と公認会計士(CPA)が設立した非常に積極的な信託組織を合法だと信じて使っていたが、IRSはそれを脱税目的で作られた組織とみなし、エリックを重罪3件と軽罪3件で訴追した。
裁判が近づくと、IRSはエリックが軽罪を認めれば重罪の訴因を全て取り下げると提案。自らの違反行為を受け入れ、軽罪を認めたエリックは、禁錮1年の判決を受け、9か月の刑期を終えた時点で釈放された。