COLUMN
製造業のサブスクリプション化に必要な3つのステップ
「モノを売る企業」から「成果を売る企業」へ。製造業がデジタルトランスフォーメーションするために必要なこととは?セールスフォース・ドットコムの道下和良が解説する。製造業が「販売したら終わり」のモデルから脱却し、カスタマーエクスペリエンスの強化など、サービス業へと変革していく。セールスフォース・ドットコムでは、製造業のデジタルトランスフォーメーションが生産現場の革新に留まらず、ビジネスモデルの変革を伴うものとして進行しつつあると理解しています。
我々が理解する、こうした顧客起点のデジタルトランスフォーメーションには主に3つのステップがあります。従来の製品販売が最初のステップ、つぎのステップでは製品の販売に加え、アフターサポートなどのサービスを高度化し、カスタマーエクスペリエンスを向上させる。そして最後のステップでは製品を売り切りにせず、利用期間に応じた利用料形式の「サブスクリプション」の仕組みを導入し、継続的にサービスを提供していく。
技術力が差別化要素となった時代から、カスタマーエクスペリエンスの向上が求められる時代へ。そして、これから先の時代を勝ち残っていくために必要なのは成果を出すまで付き合うカスタマーサクセスの姿勢だ。
このステップの進行に伴って企業と顧客は直接ハイタッチで繋がり、製品自体ではなく、製品を利用してもらうことで生み出される価値である、顧客の業務上・事業上の「成果」を意識しながら長期の取引関係を築いてゆきます。
こうした、デジタルトランスフォーメーションの重要性にいち早く気がつき、積極的に取り組んできたのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)です。GEではすでにジェットエンジンの料金をエンジンの回転数や飛行時間などに応じて支払う、サブスクリプションの仕組みで提供していますが、本質は「成果」志向に立ち、エンジンの稼働データを顧客の機体整備業務の改善とスピード化に活かしていることにあります。
また、フィンランドに拠点を構える、昇降機世界大手の会社「コネ(KONE)」の事例も同様に、顧客が製品を使うことによる「成果」にフォーカスしています。エレベーターやエスカレーターは、設置場所の条件によって長さなどが細かく変わり、人間の指紋のようにすべてが同じではない。故障した際に対応すべき技術者も故障の種類によって異なるため、同社ではAI(人工知能)を障害の事前検知に活かし自動で技術者をアサイン。顧客の業務の停止時間を可能な限り短くすることに成功しています。
GEやKONEのようにデジタルトランスフォーメーションを推進していくためには、データを取得するためのIoT、それらのデータを1か所に集めて解析・活用するためのAIなどの要素技術が挙げられますが、そうした技術的なことはもとより、さらに重要なのが顧客との関係を深めることです。
我々、セールスフォース・ドットコムは1999年の創業以来、サブスクリプションモデル一筋で、ソフトウェアの提供を続けてきました。その経験からの学びは、サブスクリプションモデルでサービスを提供することにおいて何より重要となるのは顧客との関係性です。
サブスクリプションモデルの場合、顧客が「もう使いたくない」と考えたら、翌月から他社に移行されてしまうかもしれない。つまり、ずっと製品・サービスに満足し続けていただかなければいけないわけです。
では、顧客と良好な関係を築き、それを継続し続けるにはどうすればよいのか。大切なのはカスタマーサクセス。製品の技術やスペックではなく、製品の利用を通じて得られる顧客の成果や成功にフォーカスすることです。
実際、GEやKONEは「モノを売る企業」から「成果を売る企業」への変革が進行中です。この変革は、製品や技術中心の発想から、顧客や成果中心の発想へと社内の意識改革も伴うもの。GEのように当社でも、「カルチャートランスフォーメーション」として考え方や働き方、人材育成や評価のやり方まで含めた企業文化全体的な活動を重要視し、注力しています。
このように、いかに顧客の成果に強くこだわる企業になれるかどうかが、製造業のデジタルトランスフォーメーションには必要不可欠だと思います。
道下和良◎セールスフォース・ドットコム常務執行役員 ビジネス開発統括本部長。1997年慶応義塾大学総合政策学部卒業後、日本オラクル入社。エンタープライズ向け営業、営業部長を担当し、2010年CRM事業責任者。13年8月にセールスフォース・ドットコム入社。営業部門執行役員を経て17年より現職。