今年で13版を迎えた「グローバルリスク報告書」は、経済界のみならず、各国政府や国際機関、企業などの長期戦略策定にも大きな影響を与えている。世界経済フォーラムのフラグシップ研究のひとつでもある「グローバルリスク報告書」の最新動向を数回にわたって解説したい。
危機の常態化が研究チームの共通認識
「グローバルリスク報告書2018」は、2028年を視野に入れた世界共通のリスクを把握する試みだ。グローバルリスクとは、今後10年間において、発生した場合には複数の国や産業に多大な悪影響を及ぼす可能性のある、不確実な事象または状況のことで、その研究は、ダボス会議に参加する世界のリーダーたちへのアンケートを基に、今後10年から20年先の未来予測を行う壮大なものとなっている。
研究の成果は、毎年1月中旬に、「グローバルリスク報告書」として公表されているが、「Crisis is the new normal.(危機の常態化)」というのが、この研究チームの共通認識だ。私は2012年報告書の東日本大震災特集から、とくにリスク・レジリエンスの専門家として、このプロジェクトに関わるようになった。
グローバルリスクは5つのカテゴリー、すなわち経済、環境、地政学、社会、技術から構成されている。長らく、各カテゴリーから10個のリスクを同定し、計50のグローバルリスクを研究対象としていたが、2017年からは30のグローバルリスク(経済:9、環境:5、地政学:6、社会:6、技術:4)を評価対象とするようになった。
同報告書の重要な成果物は、「グローバルリスク・ランドスケープ」(図1)だ。定義された30のグローバルリスクを、今後10年での発生可能性(横軸:Likelihood)と、顕在化した時の影響度(縦軸:Impact)を相対的に可視化したものだ。また、発生可能性と影響度の認識が、過去からどのように変遷してきたのかという情報が「リスク・トレンド情報」(図2)として公開されている。
図1 グローバルリスク・ランドスケープ2018
図2 グローバルリスク・トレンド(2008―2018)
図1の「グローバルリスク・ランドスケープ2018」のなかで注目すべきグローバルリスク(ランドスケープの右上領域)は、異常気象、自然災害、気候変動への対応、サイバー攻撃、水資源危機、大規模な移民の項目だ。「グローバルリスク報告書」は、世界経済フォーラムが調査したものだが、経済リスクよりも環境、社会、技術のリスクが驚異と評価されている点が興味深い。
さらに、相対的な頻度は先のリスクよりも低いが、発生した時のインパクトとして最大と評価されたのが大量破壊兵器(核ミサイル)の脅威だ(ランドスケープの左上領域)。報告書のなかでは北朝鮮危機(the North korea crisis)という表現も使用されている。