味覚から考える「サラリーからの解放」

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塩は人の生命維持のために重要で、もちろん料理にも欠かせない調味料。塩の効いていない料理は美味しくないこともありますが、そんな塩について、ラテン語、日本語、英語、フランス語、イタリア語で調べてみて、気づけたことがあります。

塩が貴重だった古代ローマ時代、税金や給料はサラリウム(塩)で支払われていたと言われています。そのサラリウム(salarium)は、英語のソルト(Salt)の語源。その流れで、サラリーマン(salary man)という和製英語の意味を訳してみると、面白いことに「塩漬け人」ということになります(笑)。

やべっ、自分じゃないか……って思っている人、ちょっと食生活を気をつけなければいけないですね。人間ドックや定期検診で、「減塩してください」「塩分濃いもの食べ過ぎてますよ」と指導されている方もたくさんいると思います。塩分の過剰摂取が現代の病気を引き起こしている原因でもあるので、耳が痛い話です。

また、サラリー漬けになっていることも、気にしなくてはいけないかなと思います。塩は常習癖を持っていると言われます。もっともっと、と欲してしまうのです。これは、お金に通じる気がします。現在の社会の構造は、塩やお金に依存した「塩漬け」と言えるのかもしれないです。どっぷり漬けて、習慣を作っていく、これぞ資本主義なのでしょうか?

では、どうしたらこの塩漬け状態から解放できるのか。僕は、味覚を通してそんなことをよく考えています。

そもそも人間の味覚とは?

人間が舌の上で感じる味は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味という五味に分類されます。辛味や渋味はここには入りません。そしてそれぞれ、以下のような役割があります。

・塩味:生きていく上で欠かせないミネラルが含まれるかどうかを判断する
・甘味:食べ物にエネルギーが豊富に含まれていることを判断する
・酸味:食べ物が腐っていないかを判断する
・苦味:自然の植物には毒を含むものが多く、それを避ける
・うま味: (これについて詳しくは別の機会に)

この中で、塩と砂糖に関しては、精製できるようになってから、つまり他の味よりも遅く、社会に広まりました。そして、この精製が工業化されてから、現代の病は増加していると言えます。

ではそれ以前の食事はどういうものだったかというと、塩も砂糖も高級品だったため今のように使うことができず、酸味・苦味・うま味を軸に構成された味付けでした。塩や砂糖は、あくまでも一振りして、素材から味を引き出すための“魔法のおまじない”だったのではないかと思います。

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ヨーロッパに住んでいることもあり、僕は常に歴史を見るようにしていますが、地中海にはガルムという万能調味料があります。これは、古代ローマの調理レシピを集めた文献「アピシウス」の中でも出てくるのもので、日本語でいう魚醤のこと。魚が発酵して熟成されてできた調味料で、アジアには、ナンプラー(タイ)、ニョクマム(ベトナム)、しょっつる(日本)などがあります。

ナポリの隣、火山で埋もれてしまった伝説の都市ポンペイの壁画にもこのガルムを作っていたことが示されていますが、うま味成分の一つであるグルタミン酸がたっぷりのこの調味料は、本当に万能で、「アピシウス」を読んでいると何にでも使われていたことがわかります。

現在はコラトゥーラという名前で、ナポリの隣町チェターラで作られていますが、隠し味に使うと、そのうま味成分によって料理が格段とふくよかで美味しくなります。
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文=松嶋啓介

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