ビジネス

2018.02.03

モノづくりも買い物も「自分が欲しい」という気持ちが大切だ

吉田玲雄(左)、吉田克幸(中央)、大西洋(右)


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玲雄:日本スポーツ界のユニフォームを見てよく思います。特に日本代表のユニフォームは、海外ブランドや海外の縫製工場に託したくないですよね。

大西:オリンピックのユニフォームはいろいろなところで話題になりますね。私は元いた伊勢丹でユニフォームをつくりたかった。一方で、ファッション業界で誰にデザインさせたらいいかというアンケートを取ったことがありました。そうしたら、誰ということではなくて、日本の素晴らしい素材と日本にしかない技術力でつくるのがいいという答えが返ってきた。私も今そう思います。

克幸:その通りですね。あまりおかしなことばかりしていると日本の恥だと思います。フランスはフランス独特なユニフォームをつくりますが、日本はいつも外していますよね。いったい誰が決めているのか。決めるのは官僚か大臣か運営委員か知りませんが、それぐらいわかれよと思いますけどね。モノの良さよりも、損得とか人間関係で決まるケースが多いのでしょうけど。

大西:先ほどおっしゃられた「刺し子」も日本の伝統的技術ですよね。

玲雄:「ポータークラシック」のいちばん新しい「刺し子」は、柔らくなって、軽くなったのです。これは、あるタレントさん用に特別サイズでつくったものですが、柔らかくなって、軽くなったのです。ぜひ触ってみてください。

大西:こんなに軽くできるのですね。しかも、かなり柔らかい。

玲雄:これは5年ぐらい開発してきたもので、量産可能な「刺し子」なのです。「刺し子」を一からつくるのはたいへんな時間と労力が要るのですが、日本製にこだわりながら何とか機械で量産できる「刺し子」というのを、父がずっと思い描いてきた。これは、それを実現したものなのです。2年前に完成し、少しずつブラッシュアップしてきました。

大西:まさに伝統に新しい息吹を吹き込んできた。

玲雄:鞄も、寝具の老舗でムアツ布団でも知られている昭和西川さんと一緒に開発させていただいています。重さを感じない鞄というものを3年かけて開発してきました。荷物が軽く感じる、次世代のバッグです。いま、鞄なんて世の中に溢れていますからね。通常はデザインやマテリアルを基準にしてつくっていますが、ほんとうに消費者の方たちがそれを必要としているのかどうかということを真剣に考えています。

克幸:この鞄にはぼくも負けました。今後、重たいものを運ぶあらゆる分野でそれが基本になると思うぐらいのものを開発した。できあがったものを見て、ずっとお酒はやめていたのですが、キッチンにあったミントのお酒でちょっとだけ乾杯しましたよ。自分が生きているうちに、自分ができなかったことを、玲雄のやつ、やりやがってと。

大西:新しい発想も大切だということを教えてくれますね。モノづくりにおいて、秘訣とかはありますか。

克幸:探究心、好奇心、好きだという気持ちがいちばん大切ですね。好きじゃなくちゃできない。

玲雄:好きだ、という気持ちはだれにも止められないですからね。

大西:自分が欲しいものをつくる、という感覚なのですね。

克幸:それがなれければ絶対にダメだと思います。すごく大事なポイントだと。買われる方も、そうだと思います。皆さん、自分が欲しいから買うので。

大西:ただ安いからではないですよね。自分が欲しいからですね。それが買うという衝動の基本だと思うのです。ところが、いまは安いから、手軽だから、ネットで手に入るから、そういうことに流れてしまっている。買うという行為の原点は、自分が欲しいものを買いたいという気持ちをいかに持たせるかということですよね。

克幸:とにかく欲しいという気持ちが大切ですね。

大西:結局、われわれの業界は、ほんとうにモノづくりの楽しさとか、モノをつくっている方々の気持ちが、最後、お客さまにきちんと伝わるかどうかが勝負だと思うのです。少子高齢化になり、百貨店においでいただけるお客さまは、毎年、3%から5%ぐらい落ちるというふうに自分は思っていた。

それはいたしかたないことで、ほんとうにこだわったお客さまとか、何かのために百貨店に行くというお客さまがどれだけ増えるかということが大事なのです。そのとき決め手となるのは、ほんとうにこだわったプロダクトがどれだけあるかということなのです。そういうものがあればネットが出てきても何が出てきても勝てると思います。

編集=稲垣伸寿 松下久美 写真=細倉真弓

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