当時、ハードウェア分野では“中国のアップル”と呼ばれたシャオミ(小米)が急成長していた。メイトゥも13年に自撮り専用スマホ「MeituKiss」を発売し、ソフトとハードの両面から美を追求していった。
「1億人のアプリ利用者の1%でもメイトゥのスマホを買えば、100万台を販売できる。そのための投資も惜しまなかった」
そして14年に企業価値20億ドルで3億5000万ドルの資金をIDGやタイガーグローバルらから調達。ユニコーンの仲間入りを果たしたメイトゥはその後、日本やシンガポール、インド、アメリカなどに海外拠点を開設した。
「美しくなりたいという思いは世界の女性に共通だけど、地域によって美の定義はさまざまだ。各国のユーザーが好むエフェクトを用意しローカライズを行った。ブラジルではリオのカーニバルの時期に合わせ、特殊なエフェクトも追加した」
メイクに特化した「MakeupPlus」はAR(拡張現実)を活用した多彩なメイクが楽しめる。
狙いは「インフルエンサー」
しかし、業績を急拡大中のメイトゥにも課題はある。17年上半期の決算でメイトゥは495万ドルの損失を計上。損失額は前年同期比で87%の減少となってはいるが、上半期の売上3億2700万ドルの8割以上を製造コストの高いスマホが占めており、アプリからの収入はまだ低い。
また、同カテゴリではLINEが運営する「B612」や新興の「Faceu」などの競合が力をつけつつある。それでもなお、ウは強気の姿勢を崩さない。
「メイトゥの強みはファッションや美容に関心が強く、購買力も高い中国の大都市部の若い女性たちを、美顔アプリのエコシステムに囲い込んでいるところ。Eコマースアプリの『Meitu Beauty』にはAIが肌質を分析し、その人に合う化粧品を提案する機能を盛り込んだ。資生堂やポーラの製品もよく売れている」
また、14年に立ち上げたライブストリーミングアプリ「メイパイ(美拍)」のMAUは1.5億人を突破し、同社の主要アプリの中で最も利用者数が多いアプリとなった。化粧品会社メイベリンがプロモーションに用いた結果、2時間で1万本の口紅が売り切れたことは世界で大きく報じられた。
「メイパイには中国でKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーたちがそろっている。モバイルのEコマースが急拡大するなかで、彼らの広告パワーは絶大だ。先日はAIを活用してライブ動画の背景をリアルタイムで差し替える機能も導入した。ここをブランドの広告スペースとして活用すれば大きな収益が見込める。ユーザーの関心に合わせコンテンツをレコメンドする機能も磨き上げ、インフルエンサーたちの価値をさらに高めていく」
メイトゥの自撮りスマホの広告キャンペーンには日本でも有名な上海出身のモデル、アンジェラベイビーが起用されている。
創業10年を迎えるメイトゥは、社員数1000名以上の規模に成長した。これまで限界を感じたことはないか、壁に突き当たったと思ったことはないのかと尋ねるとウは即座に「メイヨ(ない)」と返した。
「ずっと成長を続けてきたし、これからも成長が続くと確信している。社員たちもみんなメイトゥの製品に自信をもっているから、マネジメントで苦労するようなこともなかった。他の経営者たちのようにビジネス書なんかは読まない。ユーザーが求めるプロダクトを形にすることだけを考えてずっと走り続けてきた。自分たちのゴールはまだまだ先にある」
いま中国では、世界的なIT企業やベンチャー投資会社、政府に牽引され、次々とユニコーン企業が生まれている。Forbes JAPAN3月号では、メイトゥほか中国の有力スタートアップの秘密を大特集。現地取材でわかったその実力とは? 詳しくはこちら>>
呉欣鴻(ウ・シンホン)◎1981年生まれ。2008年に「美図」を創業。「BeautyPlus」などの美顔アプリを世界で大ヒットさせた。近年、注力するのが動画ストリーミングアプリの「美拍(メイパイ)」。16年のカンファレンス「Asia Beat」でウは「00年代以降に生まれた中国の10代は動画SNSの活用度が非常に高く、利用時間は90年代生まれの3倍に達している」と述べた。