なぜ社員の飲み代を会社が負担するのか? 補助制度の狙いと効果

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次に、この制度設計における4つのポイントを説明する。

ポイント1. 他部署の人を誘う必要がある

この制度を始めたのは、創業3年目、社員30人くらいになった頃。部署ができ、役割が明確になってきたことで、「他の人が何をやっているのかわからない」という声が出てきた頃だ。これは組織の拡大とともに避けられないことであるが、こうした状況を放置すると、そのうち「営業は現場のことがわかっていない」「現場は顧客視点がわかっていない」などといった不満に発展する。

しかし「Know Me」をすることで、営業は「エンジニアがどんな思いで開発しているのか」「仕様変更がいかに大変なのか」といったことがわかるし、エンジニアは「営業の仕事がいかに大変なのか」「顧客が何を求めているのか」という視点を得ることができる。

実際に筆者は、営業が「あのエンジニア達が本気で作ったものなんだから、なんとしても俺たちが売ってやる」と言っていたり、エンジニアが「営業達が売れないということはプロダクトに問題があるのだから、もっといいモノを作ろう」と言っているのを聞いたことがあり、この制度の効果を実感している。

ポイント2. 過去に飲みに行ったことがない

できるだけ多くの社員と交流して欲しいためこの条件をつけているが、そのうち全員が初顔合わせというのは難しくなり、条件は組織の拡大とともに何度かチューニングしている。現在は「過去に一度もKnow Meしたことがないペアが1組以上あること」「 過去3か月以内にKnow Meしたことがあるペアが含まれていないこと」を条件としている。制度の主旨を損なわず、かつ利用のしやすさも担保するためには絶えずこうしたチューニングが必要だ。

ポイント3. 人数は3人以内

この人数制限が肝である。10人の飲み会では単なる宴会になってしまう。しっかり全員と話ができ、本音で語り合える人数としては「3人以内」がベストだ。もちろん2人でもいい。4人でも悪くはないが、3人の場合よりも何も話さない人が出てくる確立が高まる。やはり、コミュニケーションの質が最も高まるのは3人がベストというのが経験則だ。

ポイント4. キャッチーな名前

制度を流行らせるためにはネーミングが重要だ。「飲み会補助制度で飲みに行かない?」と言うより、「Know Meしない?」と誘う方がよりフレンドリーで誘いやすい。当社の社内制度はどれもネーミングに凝っており、制度を考える時にはまず名前から決めるというくらい重視している。ネーミングについては別の回でも取り上げたい。

なお、この制度は「1人月2回まで」という回数制限があり、かつ会社全体での1ヶ月の総枠が設定されているが、会社としてはそれなりのコストをかけている。筆者はこの制度はどの会社にも強くお勧めしたいと思っているが、企業によって費用対効果は異なるだろう。では、どんな企業にとって「Know Me」は費用対効果が高いのか。それは以下の条件を満たす組織だ。

・ビジョン、理念を重視している
・企業の成長スピードが早い
・仕事の内容がころころ変わる

ビジョンや理念といった抽象的な概念を全員で共有するには、より腹を割った対話が必要だ。また、企業の成長スピードが早く仕事の内容がころころ変わる環境においては、「自分の仕事はこれだけ」「それ以外はやらない」というより、絶えず自分のポジショニングを確認しながら他者、他部署と連携していく必要がある。スポーツでいれば野球というよりサッカーに近い。Sansanにおいては、この緊密な連携について「7人8脚」と表現している。
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文=角川素久

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