奈良とガウディから学ぶ「オリジナリティの見つけ方」

Photo by Hiroshi Homma / Yuki Naruse



ほうせき箱のオーナー、平井さん

平井さんは氷の食文化発祥のこの地で、まわりのかき氷屋さん、あるいは本業は別のことをしている人たち(たとえばフレンチレストランやお茶屋、和菓子屋、パティスリーなど)にかき氷をやることを薦めた。そしていろいろなお店が、夏の間だけかき氷をスタートした。これが、本業の強みと相まって、めちゃくちゃおいしい。いまでは、夏になると奈良市内だけで何十というお店がかき氷を提供している。

面白いことに、かき氷のはしご文化さえ生まれている。「まずは、“お茶のこ”で氷を食べて、その後に“ほうせき箱”、最後に“ルクレール”に行く」というように、いくつものお店を食べ歩きする人が増え、ルートもできているほど。平井さんは、大仏、鹿のイメージが強い奈良に、もうひとつ、かき氷の文化を作ろうと奮闘している。

その文化に共鳴した僕たちもまた、氷室の守り神である氷室神社さんの協力や平井さんたちの協力を得ながらON THE TRIPでガイドをつくった。氷の文化をはじめ、本当にいいと思う店を平井さんに選んでいただき、紹介している。ぜひ現地に行ったら、それらのお店をはしごして欲しい。

私たちは生み出さない。ただ、発見するだけ

ガウディは、次のようにも言っている。「私たちは生み出さない。ただ、自然から発見するだけである」と。

なにか新しいサービスをつくるということは、新たに生み出すということではなく、そこに元々あったものを再発見するということなのかことなのかもしれない。つまり、アイデアとは発見する力にこそあるのではないだろうか。原点を見つめ直すことで見えるものがある。

ここで紹介した二人の起業家はソトモノの立場にたち、始点を見つめ直した人たち。この発見力は視点の置きどころであり、つまりあらゆる支点に身を置くことが求められるのだろう。これを養うものこそ旅そのものだという気がしてならない。実際、ここで紹介した二人とも起業前に旅に出ていた。

ぼくたちの役割もまた、各地域に根付く「光」を旅人の視点で発見して伝える仕事。観光とは、光を観ることなのだから。それを日本各地で見つけて物語で紹介したいと思っている。その始まりが奈良だったのは、やっぱり気持ちがいい。

最後にこの場を借りてお礼が言いたい。奈良滞在でもっともお世話になったのは、大安寺の河野住職。何ヶ月にもわたりバスを駐車場に停めさせて頂いた上に、とてもやさしく、細部まで気遣いをしてくれた。

ON THE TRIPでは大安寺のガイドもリリースしている。そのテーマは、地下に眠っている巨大なロマンを探求すること。今でこそ知っている人も少ないマイナー寺院。でも、当時はとてつもなく大きい、天皇が日本で一番初めにつくったお寺だ。そんなお寺のいまでは跡しか残っていない場所を、古地図を重ねながらまわるガイドを作った。

大安寺には当時、海外からの留学生もたくさん集まったという。彼らはここで寝泊りしながら、日本を学んだ。そういった背景を知った上で大安寺に泊まりながら奈良を学ばせていただいたのは、偶然ではない気がするのである。


大安寺の駐車場に、バンオフィスを停めていた


大安寺インタビューの様子

次のバスオフィスの拠点は沖縄だ。本土の冬は寒い。とくにバスの寒さは厳しいから、寒いときには南国へ。ひと足、いやふた足くらい早い沖縄のひまわりの満開を見ながら。

文=成瀬勇輝

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