「勝て」は禁句! スポーツの最前線が示唆する新時代のリーダーシップ

(左)プロノバ 岡島悦子氏 (右)日本ラグビーフットボール協会 中竹竜二氏


「スキル」ではなく「スタイル」で判断する

中竹:おっしゃる通り、私は当時サラリーマンでした。10年以上ラグビーに携わっていなかったのに、突然、当時日本一だったチームに呼ばれたんです。そしてプロ経験がない中で、早稲田大学ラグビー蹴球部の監督をすることになった。監督になるときに、前任でプロ選手経験もあった清宮克幸さんに理由を尋ねたら、「お前のコーチングには期待してないよ」と言われました。

岡島:それなのに、どうして監督にとお声がけがあったのでしょうか

中竹:清宮さんは続けてこう言われました。「お前は自分の能力が高くないと分かっているけど、それを超えて、『人を巻き込む力』がある。世代を超えた周囲を全部巻き込んで、それで勝てるのではないかと思う」と。

その視点はすごいですよね。ラグビーの場合、監督の下に、選手に直接指示を出すコーチが就くのですが、私が監督に就任してからは、15人という前例がない人数のコーチをつけて試合に臨みました。

岡島:とても示唆に富んだお話です。私自身はここ数年、次の社長を選ぶ、いわゆるサクセッション・プラニングという仕事を数社で行なっていますが、経営の現場でも、社長を選ぶ際にはその人自身のスキルや能力よりも、そのリーダーが「いかにイノベーションを創出する環境を創れるか」という観点が重要視され始めています。

今までの成長から飛び地の「非連続の成長」を牽引することを期待されているためです。成功モデルの固定概念というバイアスをはずす場、善意の失敗を許容する文化などの「環境整備」をリードできる能力です。

中竹:経営者を選ぶとき、多くの企業はスキルやオペレーション能力で選びます。しかし、そうではなく、イノベーションを起こす場や失敗を認める環境をつくる力が必要だと思います。リーダーが周りを巻き込み、彼らの力を最大化していく視点がなければ、近いうちに限界がくるでしょう。

岡島:羊飼い型のリーダーになれるかどうかも、まさに環境整備にかかっています。自分の部下たちが最高のパフォーマンスを発揮するために背後からどう仕組みを整えるかが重要なのです。

顧客のニーズが顕在化していない状態では、潜在的なニーズを引き出すために現場の人がどんどん仮説を立ててPDCAを回さなければなりません。そのための場づくりをリーダーがやることになります。このために必要なのはスキルじゃなくて、中竹さんのおっしゃる「スタイル」、すなわちリーダーの「あり方」だと私は思います。

中竹:スキルじゃなくてスタイルというお考え、共感します。岡島さんのお話を聞くと確かに、スポーツの世界で求められるリーダー像とビジネスの世界でこれから求められるリーダー像は一致しますね。何か違いを感じる点はありますか。

岡島:ラグビーの場合、ポジションごとに全員の役割が明確になっていますよね。ここは現在のビジネスと違うところかもしれません。ただ、「羊飼い型のリーダーシップ」の下では、コレクティブ・ジニアス(集団天才)が求められていますから、ビジネスでも一人ひとりの「強み」を明確にしてそれを集め共創する、ということが加速していくでしょう。(第2回に続く)

文=岡島悦子 写真=小田駿一

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