そこで僕は、六本木アークヒルズ・アネックスに出す予定だった「タワシタ」というレストラン(連載第9回に詳しい)の支店を、「ランディを驚かせるための店」にしようと思いついた。
店の名前は「RANDY ─Beverly Hills Tokyo─」。ビバリーヒルズに本店がある、と思わせる仕掛けである。ロゴは、パーソナリティーを務めるラジオ番組で募集して、一般の方がつくってくれたものを採用させていただき、ランディ・カッツという名前にちなんだ「ランディ・カツサンド」というメニューも用意した。
そのとき、あらためて感じたことがある。新しい店をつくるとき、一般的には「20〜30代のハイセンスの女性」とか「40代のエグゼクティブ・ビジネスマン」などと非常にマスなターゲット設定をする。そうではなく、もっとコアな誰かを想像しながらつくった方が、いい店ができるのではないだろうか。
僕たちはランディ・カッツという、たったひとりをイメージし、彼が本当にハッピーな気持ちになるための店にしようと考えた。そしてその気持ちをスタッフみんなで共有し、半年間営業しながら、彼が来る日を待ちわびた。
いよいよランディが来日することになり、僕は「いい店を見つけたんだよ」とRANDYに彼を連れてきた。店名を見るやいなや、彼は“Oh my God!”と叫び、信じられないような面持ちで出迎えのスタッフを見渡してから、こういった。「すごいサプライズだ。こんな幸せなことはないよ」。
社員旅行は絆を深めるのに最適
今年の社員旅行の行き先は、LAとサンフランシスコにした。3泊のうち1泊ずつ知り合いにお世話になるというプランで、初日はランディ宅(シェフやウェイターを呼んでパーティーをしてくれた)、2泊目はスチュワートというオーナーシェフが経営しているレストラン「State Bird Provisions」の一角を貸し切ってディナー、3泊目はグーグル本社を見学といった具合だ。
ところで、社員旅行というのは想像以上に絆が深まる。そこで考えついたのが、異業種社員旅行ツアーだ。参加資格を獲得したさまざまな企業の社員で2泊なり3泊なり時間を過ごすと絶対に仲良くなるし、一般的な異業種交流会を超えるものになる気がする。
行き先は、例えば食関連の企業だったらスペインや北欧、IT関連だったら西海岸か、思い切ってインドもいいかもしれない。国内であれば2泊3日で、価格を30万円くらいに設定し、30万円じゃお釣りがくると思うような価値ある体験を提供する。
旅行会社が商品企画を考えるのもありだけど、この際、Forbes JAPANで企画をしたらいかがでしょう? 高野編集長の知人が順繰りにツアコンのバトンタッチをしていったら、さぞかしユニークなツアーが期待できると思うのですが。
旅先でも、日常でも、ひとにぎりの好奇心さえあれば、人は誰とでも仲良くなれる。いままで知らなかった視点や価値観にも巡り合える。地球上には73億人余りいるけれど、自分が声をかけなかったら二度と人生で巡り合わないかもしれない。
だから僕は一歩、踏み出してみる。ランディとの12年はそんなふうにして始まった。
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