ビジネス

2018.01.21

「ひとにぎりの好奇心」が生む、業種も国境も超えた絆

異業種社員旅行ツアーを企業側が企画して招待すれば、リクルーティングにも結びつくかも・・・

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第29回。六本木アークヒルズ・アネックスにできたレストラン「RANDY」は、寿司屋で隣り合わせたある外国人との出会いがきっかけだった……。


銀座に「さわ田」というミシュラン二つ星の寿司屋がある。12年ほど前、さわ田でひとり寿司をつまんでいると、カウンターの並びにひとりの外国人が座っていた。彼は日本語がまったくできない様子だったが、なぜか注文だけは日本語でしていた。

しかもコハダとかアワビの肝とかクチコとか、外国人にはちょっと珍しい、“通”な頼み方をするのだ。面白い人だなあと気にかけていると、僕が頼んだネタを彼が真似して頼んだので、それを潮に名刺を交換した。

数日後、ロサンゼルス(LA)に住むその彼から「来月、日本に行くから食事しませんか」というメールがあったので、月島の焼肉店に招待すると、とても喜んでくれた。彼は番組プロデューサーのような仕事をしており、宝くじのテレビ番組を日本でつくりたくて何回か来日しているとのこと。食事のお礼のメールには「来月も行く」と書かれていた。

秋だったので奮発して京都吉兆嵐山本店に連れていくと、これもすごく喜んでくれた。そしてまたもやお礼メールには「来月も行く」とあった。

さすがにうちのスタッフが「その人、薫堂さんに奢ってもらうのが目的なんじゃないですか」と彼を疑い始めた。「でも、LAに来るときはぜひ自分のところに遊びに来てほしい、ご馳走するからって書いてあるよ」と返すと、「それは来るわけないと思っているんじゃないですかね」という。

そこでLA出張の際に「いまLAなんだけど、遊びに行ってもいい?」とメールをしてみた。彼は「もちろん! 明後日の12時はどうだろうか?」と住所を教えてくれた。だが、副社長の軽部政治は「これはもしかすると手の込んでいる詐欺かもしれない」と勘ぐることをやめない(笑)。「その住所が貸しスタジオという可能性もありますよ」というのだ。

そこで僕たちは招待前日に確かめてみることにした。教えられた住所を頼りに訪れると、そこはテレビで見るビバリーヒルズそのままの超豪邸街で、表札には彼の名前がある。ランディ・カッツ。

よかった、貸しスタジオなんかじゃない!と喜びもつかの間、玄関扉が開いて、なんと本人と子どもと奥さんが出てくるではないか。僕らはダッシュで逃げた。ビバリーヒルズみたいな超豪邸街を息を切らして走りぬける日本人ふたりの姿はだいぶ怪しかったと思う。

翌日、僕はさも初めて来たかのようにランディの家を訪れた。楽しい時間を過ごした僕らはさらに仲良くなり、その後も彼が日本に来るときには僕がご馳走して、僕がLAに行くときには彼にご馳走してもらった。まさに英語でいうところの“It’s my turn”というように。

コアな誰かを想像して店をつくる

そんな彼にいちばんご馳走になった、忘れられない夜がある。脚本を担当した映画『おくりびと』が米アカデミー賞・外国語映画賞にノミネートされたので、僕は社員全員をLAに連れていき、授賞式の時間を、会場ではなく、あえてランディの自宅で過ごさせてもらった。

到着して最初に通されたのは、なんとスタンディングバーに変貌していた子ども部屋。シャンパンで乾杯したあと、7つの暖炉のある大豪邸の各部屋に用意されたご馳走を順番に回って堪能した。とっておきのシャンパンやワインがランディの手によってどんどん開けられた。

そして、固唾を呑んで見守った外国語映画賞のタイトルは『Departures(おくりびと)』! 最高の一夜を僕らはランディの家族とともにした。

これほどの接待を受けた以上、ランディにサプライズ返しをしなくては。しかもうんとスペシャルなもので──。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家 BEST100」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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小山薫堂の妄想浪費

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