「オン」を充実させるオフとアウェイの過ごし方 | 出井伸之

クオンタムリープ代表取締役 出井伸之氏


自分の好奇心と向き合える大切な時間

もう一つ、過ごした時間に比例して人や文化との関わりが濃くなる京都も、私にとって大切なアウェイの地だ。



ソニーを辞めてから、私は何人かの京都人と知り合った。立石さんご夫妻、華道家元の池坊さん御一家、斎藤茂さんなどと深いお付き合いをさせていただいている。また、オムロン、京セラ、大日本スクリーン、ニチコン、任天堂、GLMなどとビジネスで関わりがある。

現在、毎月京都を訪れるきっかけとなっている斎藤茂さんは、ゲームソフト会社トーセの会長だ。プレイステーションのゲームソフト開発関連で知り合い、お互いゴルフと美味しいものが好きということもあり、すぐに意気投合した。今では家族ぐるみのお付き合いになっている。「G」のグルメの記事でも書いた、日本屈指の料理人が期間限定で立つ非公開のお店も斎藤さんの繋がりだ。

京都は人と人の繋がりが強い。受け入れてもらうまでには時間がかかるが、そのあとは深く長い付き合いになることが多い。「京都には見えない壁がある」とも言われるが、それは長い歴史を伴う伝統やしきたりを守るがゆえ。一旦心を分かち合い、壁の中に入ることができると一変する。

京都に魅力を感じるもう一つの理由は、この土地が持つタイムスリップの力だ。京都に入ると空気が変わる気がする。言葉や街並みすべてに古都の名残りがあり、別時代に来たような気分になる。彬子女王さまの著書「京都ものがたりの道」にあるように、一つ一つの道に時の流れがあり、今も歴史が息づいている。

そんな京都が「シルクロード」と関連があることに、昔から私はとても興味を持っている。毎年7月に行われる祇園祭に行くと、アラビア諸国、インド、中国、韓国から日本へ辿り着いた文化の流れを感じることができる。

シルクロードを旅した海外の人から持ち込まれた勾玉や絹、楽器や食べ物。なぜ日本にこれらを持ってきたのか、極東の国に何を求め持ち帰ったのか、それが現在各国でどのように作用しているのか……一人で街を歩きながら想像を巡らせるのが好きだ。

歴史上の謎めいた魅力を持ち続けている街。それが京都であり、日本の故郷だ。私は友人に「京都行くときはパスポートを持たないと」と冗談で言っている。海外の国のような魅力とタイムスリップして時をさかのぼるような体験ができる。ホームと違う空気が味わえる“オフ”の場所だ。

オンの質を高めるために重要なこと

私は、アウェイで過ごすオフの時間をつくり、大切にするからこそ、ホームでのオンがより一層充実し、新しいものを生み出していけるのだと思う。オンの質を高めるためには、オフが必要なのだ。

私の経験から言うと、一人になってみることがとても大切だと思う。自分自身について深く考えたり、普段しないことを一人でしてみたり、一人だからこそ新しい人と知り合えたり。こうしたオフの要素が、やがて2倍3倍にもなってオンに表れる。

このコラムを読んでくださっている皆さんも、きっと何かしら心がオフになる時間や場所を持っているでしょう。オフの要素をオンの質に上手く活かせることが自分自身の成長にに繋がっていくのです。

インタビュー=谷本有香 構成=細田知美 撮影=藤井さおり 取材協力=Quantum Leaps Corporation 撮影協力=512 CAFE&GRILL

タグ:

連載

出井伸之氏のラストメッセージ

ForbesBrandVoice

人気記事