人生の判断基準は「10歳で決まる」

(左)政策研究大学院大学 名誉教授 黒川清(右)DAncing Einstein 青砥瑞人

AIと人間の境界線が薄れゆく今、私たちは何を己の武器とするべきか。その問いに挑んだのは、政策研究大学院大学の名誉教授 黒川清氏と、脳科学・教育・ITを掛け合わせて未来の学習を創造するDAncing Einsteinの青砥瑞人氏だ。

王道のエリートコースを歩み医学の道を究めた黒川氏と、高校中退後フリーターを経験した青砥氏。対照的な二人の出した答えとは……。3回の連載を通して、人間の脳と人生をめぐる2人の考察に迫る。


──医学分野の権威である黒川さんと、脳科学分野を教育にいかす先進的な応用技術に取り組んでいる青砥さん。お二人にとって“人間の体の最も重要な場所”と言うと、やはり脳でしょうか?

青砥
:それはそれは脳は重要でしょう。しかし人は脳だけもダメです。脳はその他の身体部とコミュニケーションをとって始めて意味をなします。しかし、脳があらゆる身体の司令塔的位置付けとして重要であるとは言えると思います。

黒川:もちろん脳も重要です。脳は、人間が習得した知識や経験を集積する場所で勉強によって情報量を増やせます。でも、将来的には知識量ではAIに負けると言われています。そこで今回、私は脳以外に重要な2つの場所に注目したいと考えています

1つは心。心は、実体験を経て鍛えられ、身につき、豊かになるものです。例えば女性との相性は、知識だけあってもわかりません。会ってみなければ、心は動かないですから。さて、もう1つは何だと思いますか?

青砥:気を集める丹田でしょうか? 野球をしていたとき、丹田に意識を集中した呼吸法を実践していました。脳と連動して機能する、この心と丹田はとても重要に思います。

黒川:そう、丹田。つまりは、ヘソの下です。英語ではこの部分を「gut(ガッツ)」、日本語でも「ガッツ」なんていいますが、昔からこの丹田に力を入れれば、エネルギーが高まるなどと言われてきました。

人間は生きていくうえで毎日何かを選んでいます。右か、左か、とか。ガッツは自分が下す全ての判断の基準となるものだと私は考えています。それを形成するのは、両親の性格や、経済的な背景、兄弟構成、通った学校の校風など。生まれた後、周囲からの影響を受けて自然に形作られます。

青砥:家系の影響は大きいですね。僕自身も高校を中退しても脳の道を選び、脳を学びつつも、医学でない道を選んでいるのは触れてきた親族の影響が大きいように感じます。人と同じことを楽しく思わないアーティストだらけなのです。画家にミュージシャン、劇団の主宰者がいます。小さいころからオリジナルにこだわることが自然と身についたのかもしれません。そして、今は脳xITx教育という変なことをやりたくなったのかもしれません。

黒川:親の影響を受けて、個々人の違い、特徴が生まれます。年齢で言えば10歳ぐらいか。それまでに受けた影響によって、ガッツは変わります。

青砥:ぼくの父はずっと油絵を描いてましたが、そこから喫茶店開いてみたり、会社興したり、色々やってましたね。そんな背中、そんな話を聞いて育ったのは大きいかもしれません。なんと、僕も僕の弟も、高校中退。しかし今やどちらも会社を起こしています。別に父親を追うことを意識したわけではないですが、結果だいぶ親の影響を受けていると言わざるを得ません。少し悔しいですが。父親譲りのガッツがぼくら兄弟にも宿ったんですね。そしてこの脳天気さは、母親譲りですね(笑)。

黒川:もし青砥くんの父親がサラリーマンだったら2人の独立を制止したかもしれません。独立するよりも、勉強して有名大学へ進学しなさいと。でも青砥くんのお父さんはアーティストだった。だから青砥くんは自分の心に素直に従い、普通の人が通らない道を歩む選択ができたんだと思います。

──黒川先生の人生も、10歳までに決まっていたのでしょうか? ふたりの生い立ちについて、詳しく教えてください。

黒川:私の家系は代々医者だと、子供のころから両親から聞いていました。東大の医学部に進学したのも、父の歩いた道をたどったから。そのルートは、意識はしていなくても10歳までにできていましたし、親が無意識に自分に期待を寄せていることも感じていました。

本心を言えば、医者にはなりたくなかったんですけどね。といっても、はっきりとした目標はありませんでしたが……。

青砥:それは意外です。僕は成蹊高校を中退し、最終的には独立する道を選びましたが、黒川先生も他の人とは違うなりたい職業があったんですか?

黒川:何になりたいか、はっきりわかっていたわけではないんです。ただ青砥くんと同じ成蹊中・高校に通い、自我が芽生えたとき、親の期待と現在の自分にギャップがあると感じて反抗期を迎えただけで。そのあと結局は東大に進学しましたし、やはり、今考えると、両親や環境の影響が何より大きいのだと思います。

青砥:そういう意味では、僕はいま本当に心から親に感謝しているんです。小中高と、野球漬けのぼく。怪我などで思うようなプレーができず大好きだった野球が嫌いになり、かと言って学校で勉強する意味も見いだせず.....。そして、色んな葛藤を脳内でぐちゃぐちゃした後、学校を辞めたいと親に告げました。
次ページ > 肩書きよりも実体験

構成=華井由利奈 写真=藤井さおり

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事