大手監査法人から市役所へ、公認会計士が挑む「課題解決」

和光市企画部財政課 副主幹 山本享兵氏


山本の成果はこれだけではない。

実は、決裁フローのあり方やその制度構築も、会計士の専門領域である。山本は決裁フローにおいて、市長、副市長、部長、課長などの決裁をあわせて年間5000件以上削減した。仕事中にひっきりなしに決裁書類が回ってきている課長を横目に、改善の必要性を強く感じたからだ。これは単純な業務削減というだけではない。内部統制としての適切な権限移譲を目的とし、決裁者が重要度の高い事案に集中できるようになると同時に、責任の所在が明確となった。

経営課題をまとめた『和光市課題ノート』

専門家とはいえ、一職員である山本の一声で簡単にルールが変わるわけではない。改善を絶えず行うために、山本は常日頃から『和光市課題ノート』を携え、なにか気がつくことがあるたびにそこに書き留める。いまではそこに、市の抱える300ほどの課題とその改善のアイデアが記されている。さらに驚くことに、そのうち100近くのものが、既に解決されている。

それでも、改善の機運が高まっていない状況では、無理に動くことはないという。それは、「検討したけどダメだった」という烙印を不用意に押されないためだ。やがて、その課題に対して関係者の気持ちが傾いたとき、ここぞとばかりにあらゆる根拠を提示し、改善を促す。

どんな組織であっても経営課題は尽きることはありえない。おそらく、山本のノートにはこれからも新たな課題が刻まれ、それと呼応するように、解決された記録も刻まれ続けていくだろう。監査法人から市役所職員という山本の選んだ道は、我々の職業観を考えるうえで、一石を投じるものかもしれない。

連載「公務員イノベーター列伝
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文=加藤年紀

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