大手監査法人から市役所へ、公認会計士が挑む「課題解決」

和光市企画部財政課 副主幹 山本享兵氏

給料を3分の2に減らしてまで、自分がやりたい仕事を選ぶ人間はそう多くないだろう。大手監査法人から和光市役所へ、3年間の任期付き職員として転職した山本享兵はその一人である。

山本は前職で公認会計士として、主に官公庁に関わる仕事をしていた。経験した業務は公益法人や独立行政法人の会計監査から、行政計画の策定支援、ベンチャー政策の立案支援、上場企業の会計監査と多岐に及ぶ。

山本が監査法人に勤めていた頃、地方自治体では資産管理などを適切に行うため、複式簿記への対応などを含めた「新地方公会計制度」に沿った新しい運用が求められるようになった。しかし、全国の自治体がその制度に対応するにあたり、課題は山積していた。

当時、山本はコンサルタントとして自治体に関わり、会計制度の移行によって生じる課題への解決策を提案していた。しかし、自治体担当者はその重要性を認識するも、なかなか首を縦にふらない。山本の提案した手法を役所内で進める説得ができなかったからだ。

「このままだと新地方公会計制度はうまくいかない」と思った山本は、「それなら自分が自治体職員になって先進事例を創ればいい」と転職へ踏み切った。

会計士の専門性を活かした改善を

2015年10月から和光市役所に転職した山本は、「予算仕訳」と呼ばれる会計の仕組みを導入した。

これまで全国的な公会計の流れは、決算時に単式簿記の膨大なデータを手作業で複式簿記に変換する、もしくは、高価なシステムを導入するかのいずれかであった。どちらの場合も決算時に業務負荷が集中し、本来求められるレベルの精度を欠く処理をすることもある。

そもそも、複式簿記の有用性の一つは、資産管理をするための適切な固定資産台帳の作成である。しかし、業務がずさんになると、この資産台帳は正しく更新されない。その結果、不正確な台帳は仕事に使われないという、本末転倒な事態すら発生しかねない。

山本が進めた「予算仕訳」では、市役所の各課が予算執行を進めれば、自動的に複式簿記の仕訳ができる仕組みであった。これを進めるにあたり革新的な点は大きく2つある。ひとつは通常の業務に溶け込ませることで、各部署が負担を感じることなく取り組めるようにしたこと。ふたつ目は、高価なシステム導入を不要とし、会計制度の移行に大きなコストをかけなかったことにある。
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文=加藤年紀

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