部下:「すみません、お忙しそうだったので……(いつ声をかければよかったの)」
職場でよくある、上司と部下のミスコミュニケーション。実はこの要因は、お互いに「言葉にして伝えていい範囲がわからない」というところにあるのではないでしょうか。
上司の立場にしてみれば、部下が「助けてください」と言ってくれなければなかなか気づけないものです。だから「もっと言ってくれていいのに」と、見守っている。しかし、部下の本音は「そもそも、どこまで『わかりません』と言っていいかわからない」「どこまでが迷惑でどこからが受け入れられるのかわからない」といったところではないかと思います。
なぜこういうことが起きるのでしょうか? それは、上司と部下では世代も背負ってきた文化も違うから、お互いの“信頼と不安の物差し”がわからないためです。例えば東京で働く人の多くは地方出身者です。北海道出身の上司と沖縄出身の若い部下では、おそらく褒められて嬉しいポイントすら違うかもしれないのです。
特に今は、人によって「これを守るのが信頼」「これをされると不安」という心の物差しが以前にも増してバラバラだから、気持ちよく「お互い様」とはなかなか言いにくい時代です。だからこそ、お互いが異星人であることを認め合いつつ、物差しを擦り合わせていく必要があると思います。
信頼の距離感を伝えあうメソッド
先日、長尾 彰さん、仲山進也さんが実施しているチームビルディングプログラムに参加させていただきました。その中に身体を使った「トラストフォール」という信頼を培うためのメソッドがあって、これは2人1組で同じ方向を向いて前後に並び、前の人が倒れてくるのを、後ろの人がしっかり支える、というもの。
実際にやるとわかるのですが、倒れるときは、後ろで支えてくれるかどうかが見えないので不安だけど、それを誰かに支えられた瞬間はすごくホッとします。チームの信頼関係もこれと同じ、ということで、身体感覚をもとに信頼関係を培うための簡単なメソッドであり、僕もよくチームメンバーと行います。
ここで面白かったのは、このメソッドを「上司と部下の適切な信頼領域の合わせ方」にまで昇華した方法で行っていたことです。どういうことかというと、そもそも人によって支えてほしいタイミングが違うから、どの角度で支えて欲しいかを何度も検証して伝えあう、ということです。
例えば僕は、自分でできる範囲ギリギリまで追い込まれた上で支えられるのが好きだし、それくらいの方が力を発揮できるタイプですが、逆に、早い段階から寄り添うように支えられている方が安心して実力を出せる人もいます。
実際の仕事場では、つい上司が「あいつはほっといても大丈夫」と楽観視したり、本当は心細いのに「大丈夫です」と部下が背伸びしてしまって、結果作業が回らない、という状態になりがちなのではないでしょうか? しかし、こうったメソッドを体験してみるとわかるのは、「支えて欲しい角度を言葉にしあった方が、お互いに楽になれる」ということです。
ワークショップで興味深かったのは、倒れたときに支えてもらうタイミングを微調整しながら、きちんと言葉にして「もうちょっと早く支えて欲しい」とか「もっと不安になるまでほっとかれた方がぞくぞくして気持ちいい」とか、喋りながらやることです。そうやって、一番心地のよい倒れ方、支えられ方をコミュニケーションすること、これを日常でも、きちんと伝え合うことが大切だと思うのです。