「キングスマン」最新作はアメリカ文化への逆襲か?

『キングスマン』主演のコリン・ファース(左)とタロン・エガートン(Photo by Stephen Lovekin / Getty Images)

「キングスマン」は明らかに第2の「007」を狙っている。2015年に公開された第1作は、「古き良き時代のスパイ映画の復活」と高く評価されたが、第2作目の「キングスマン ゴールデン・サークル」は、それをさらにパワーアップ、監督のマシュー・ヴォーンがめざす「楽しいスパイ映画」を実現している。

オープニングは、主人公のエグジー(タロン・エガートン)が「キングスマン」の本部であるサヴィル・ロウのテーラーを出て、ロンドンタクシーに乗り込むところから始まるが、いきなり夜の街を疾走するカーアクションが炸裂する。狭いロンドンタクシーのなかで繰り広げられる刺客とのバトルは圧巻で、いきなり派手なアクションシーンを展開して作品のなかへと観客を引き込む手法は、いかにも「007」シリーズを想起させる。

前作では、暴力事件を起こしたストリートの若者エグジーを、キングスマンのハリー(コリン・ファース)がスカウトして、一流のスパイに仕立て上げるまでの「成長物語」が前半盛り込まれていたが、今作では、最初から全速全開でダイナミックなスパイアクションが展開される。

舞台もロンドン、アメリカのケンタッキー、ニューヨーク、イタリアン・アルプス、カンボジアと世界各地へと飛び、これも「007」シリーズ顔負けのスケールだ。とくにイタリアン・アルプスのスキー場で展開されるゴンドラのシーンでは(何故か山の上に敵方の秘密工場がある)、そのままジェームス・ボンドが演じても不思議ではないくらいの大胆なアクションが見どころとなっている。

1989年のベルリンの壁崩壊以来、東西冷戦の枠組みも終焉を迎え、映画のなかのスパイたちも新たな現実と対峙しなければならなくなった。事実、それまで2年に1回ほどのローテーションで製作されてきた「007」シリーズも、1989年公開の「007 消されたライセンス」の後は、1995年の「007 ゴールデンアイ」まで6年の歳月を待たなければならなかった。米ソ対立のなかで、ノー天気に活躍してきたスパイたちは、90年代に入ってからは一斉に悩み始めたのだ。

この間、「007」シリーズのパロディとして登場してきた「オースティン・パワーズ」(1997年)という異色のスパイ映画もあったが、これは冷戦崩壊のなかで生まれた鬼っ子のような存在で、「楽しい」作品ではあったが、どちらかというと「笑い」に重きが置かれたコメディでもあった。実は、「キック・アス」のマシュー・ヴォーン監督が撮った「キングスマン」の第1作目を観て頭に浮かんだのは、この「オースティン・パワーズ」だったのだが、今回の「キングスマン ゴールデン・サークル」では、明らかに「007」の方向へと舵を切っていると感じた。

監督のマシュー・ヴォーンと原作者のマーク・ミラーは、当初「キングスマン」を製作するきっかけとして、このところのスパイ映画がシリアスな内容ばかりになっているので、楽しいスパイ映画をつくりたいと考えていたらしい。それは見事に実現され、さらに「ゴールデン・サークル」の本格的アクションシーンと世界を股にかけた豪華なスケールで、新たなスパイシリーズへと踏み出している。

ところで、この「キングスマン」だが、これも「007」と同じくイギリス色が色濃い作品でもある。そもそも「Kingsman」という呼称自体、イギリスの正式な国名である「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」に由来していると思われるし、今回の「ゴールデン・サークル」に登場するアメリカの民間諜報機関が「ステイツマン(Statesman)」(アメリカの国名は「United States of America」)というのには思わず笑ってしまった。
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文=稲垣伸寿

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