スタッフもキャストもイギリス色が強く、監督のマシュー・ヴォーンはロンドンの生まれ、原作者であるマーク・ミラーはスコットランド出身のコミック原作者、マークとともに脚本を担当したジェーン・ゴールドマンもロンドンの出身だ。さらにキャストは、「キングスマン」側はイギリスを代表する俳優コリン・ファースと期待の新人タロン・エガートン、実力派のマーク・ストロングで固められ、あの音楽でアメリカを制覇したイギリス出身のアーティスト、エルトン・ジョンがカメオ出演などではなく、かなり重要な本人役を演じている。
もちろん「キングスマン ゴールデン・サークル」はイギリスで製作された作品であるため、イギリス色が強いのは当たり前なのだが、それだけではなく、この作品には秘められたアメリカ文化への逆襲も感じられるのだ。
「キングスマン」は「007」とは異なり、政府の機関ではなく、民間が篤志で運営する諜報機関なのだが、今回の「ゴールデン・サークル」でタッグを組むアメリカの同様の機関「ステイツマン」が、徹底的にカウボーイ丸出しのファッションをしており、その本部がバーボンウイスキーの醸造所だというのには、イギリス人たちのシニカルな視線も感じる。かたや英国風スーツに身を包んだ都会派キングスマン、かたやカウボーイハットにウエスタンファッションの田舎者ステイツマンと、かなりコントラスト強く描かれている。
さらに世界を震撼させる陰謀を企てる麻薬王のポピー(ジュリアン・ムーア)が構える本拠地は、映画「アメリカン・グラフィティ」を思わせるアメリカンダイナーのつくりで、周囲にボウリング場や美容室などを配して、1950年代の黄金のアメリカを象徴する建物に見守られている。これらは、クライマックスのバトルシーンで徹底的に破壊されるのだが、最初からそれが目的だったのではないかと思わせるほど、この場面には力がこめられており、古き良きアメリカンカルチャーへの反撃のようにも感じられるのだ。
スティーヴン・ソダーバーグ監督の最新作「ローガン・ラッキー」でも使われていたアメリカ人の心を象徴するジョン・デンバーの「故郷に帰りたい( Take Me Home, Country Roads)」。このカントリーマインドの名曲をかき消すかのように流れるエルトン・ジョンの軽やかなヒット曲も、アメリカ音楽に対するアンティパシィーのように聴こえてしまう。
極め付けは、陰謀のかげで暗躍するアメリカ大統領が徹底的に悪役として描かれており、あまつさえ最後には逮捕されてしまう。「キングスマン ゴールデン・サークル」の全編に漂う「反アメリカ」のアトモスフィアは、イギリス人特有のブラックジョークの域を越えているようにも思える。すでに第3作目も考えられているという「キングスマン」だが、「ステイツマン」を主役としたスピンオフ企画も考えられているという(どんなものになるのやら)。
「007」の後を継ぐスパイアクション・シリーズとなるのか、はたまたイギリス人の反骨を一身に背負ったスパイスの効いた作品となるのか、「キングスマン」の今後の動向は楽しみだ。