元K-1王者の経営者が語る「私がリングの上で学んだこと」

恵比寿にある小比類巻道場にて


──SNSなどは使わず、最初は基本的に全て口コミだったと。

はい。全てお客さんのおかげです。お客さんとごはんに行っていたりしているうちに、とある経営者の方と知り合い、自分の体験を話していたところ「経営者視点からとても役立つ話だから、本を出してみたらどう?」と進言をいただき、本の出版にも至りました。また各方面から講演のお話もいただくようになり、各所で「今までで一番良い講演でした」という感想もいただきました。

──元々人前で話すことは仕事ではありませんでしたが、講演の仕事はうまくいきましたか?

不慣れなことだったので、はじめは苦労しました。ただ、講演とジムでの指導を並行して進めていくうちに、“言葉”の重要さに気付いたんです。ジムで教えている人たちの中には、私が発した言葉に対して、10理解する人もいれば3しか理解できない人もいる。

言葉を簡潔に、要素分解をしてわかりやすく自分の考えを説明することで生徒さんや選手たちは育っていくんだと気付いた時、経営者として、また指導者として“伝え方”がいかに大切なのかということを学びましたね。それからオバマ元大統領の演説などを見ながら勉強しました。

──言葉が大切だと気付いたのも、ご自身の経験とリンクする部分があったのでしょうか?

はい。これまで70戦くらい試合をしてきましたが、実は1度だけ、リングに上がるのが怖くてトレーナーに泣きついたことがあるんですよ。試合前の様子は一般の人には分かりませんが、全国のファンの期待が自分の身に重くのしかかってきて、舞台裏ではものすごい緊張と闘っています。それでも毎試合気を奮い立たせてやっていたのですが、そのときだけはダメだった。ファイターとして失格なのですが「トレーナー、俺もうダメだ。怖い」と弱音を吐いたんです。

するとそのトレーナーは「緊張しないで良い試合できるやつなんか見たことない」と言ったんです。そうか、これだけ緊張しているのはこれから良い試合ができる証拠なのか、と。その言葉ひとつで全身がバッと切り替わり、試合に臨むことができました。

やはり、心にどかんと残る言葉を知っている、使える指導者は強いなと思いますね。経営者としての勉強は全て独学でしかないのですが、リングの上で学んだことが今に活きていると思うシーンはたくさんあります。

例えば、リングの上でピンチになると体が丸くなるんですよ。体が丸くなると視野が狭くなって、あとは倒されるのを待つだけになってしまう。でもそこで頑張って胸をはると、全体が見えるようになり、パンチをブロックできるようになり、打ち返せるようになります。これは普段仕事をしているときも同様。仕事が忙しくなり“やばい!”と思う時は、一旦胸を張って気持ちを落ち着けて、一つ一つ課題をクリアしていく。単純ですが、そうするとすぐに整理できるんです。

──ジムでは一般の生徒さんにフィットネストレーニングを指導しつつ、一方でプロ選手の育成も行っています。ビジネスの世界でもポテンシャルと努力、という話はありますが、世界チャンピオンになる人はどんな要素が鍵になるのでしょうか。

ビジネスでも同じかもしれませんが、なによりも覚悟が大事。やはり覚悟がある人はすぐ伸びますね。例えばいま教えている世界チャンピオンになった選手は、小さい頃から空手で何度も日本一になっていて、高校でもK-1のアマチュアクラスでタイトルを獲っています。そういう子たちを教えるのは簡単です。最初からモチベーションが高いし、世界獲るという覚悟を持ってここに来ているので、世界を取るための戦い方を教えればいいだけですから。
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文=Forbes JAPAN編集部 写真=小田駿一

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