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2018.01.07

生産性を高められない日本の「盲点」

Ned Snowman / Shutterstock.com


図2は、特別なアンケート調査に基づいた、日米のサービス産業の品質比較だ。宅配便、タクシー、理容・美容、クリーニング、航空、地下鉄、コンビニなどで、圧倒的に日本のサービスの品質が高いという結果であり、私も概ね賛同できる。



では、「品質が良い」ということは、「生産性が高い」といえるのか。もし、品質に応じて日本の方が高価格ならば、そのとおり、ということになる。ところが、これらのサービスの価格は、私の経験上、なんと日本の方が安いことが圧倒的に多い。日本のサービス産業は、安くて、品質が高いことになる。これはどういうことだろうか。

30年から40年前、日本の物価、特にサービス産業は、アメリカよりも極めて高い、といわれていた。その頃の日米価格差を説明する要因として、品質の差を挙げていた。同じサービスでも、品質が良いのだから、価格が高くても当然、という理屈だった。

ところが、30年間日本の価格は下がり続け、アメリカの価格が上がり続けた結果、いまや価格差は完全に逆転。日本が品質の良さは生産性が高い証拠、というためには、実は価格を引き上げないといけない。

さて、金融業における人員削減は、フィンテックの進展の結果、実現すると考えられるが、みずほや三菱東京UFJが、フィンテックをどのように展開するのかを語らずに、結果の数字だけを表明するのも、異様である。サービスの質を落とすことなく、人員を削減するためには、顧客をインターネット・バンキングに誘導するだけではなく、社会全体が、キャッシュレスの支払い、送金ができるようにする必要がある。

最近、ニューヨークでは、全てのタクシーに、タッチパネルのモニターが常備されて、降車精算時に、モニターで、現金かクレジットカード払いかを選択する。「クレジット」を選択すると、モニターの横にある支払機に、クレジットカードを差し込んで精算するのが一般的になった。

先日、現金で支払おうとしたら、あからさまに嫌な顔をされてしまった。また、学生多数と食事会をすると、学生同士は、Venmoで幹事にリアルタイムで送金、幹事がクレジットカードで支払うというのが一般的になった。現金はほとんど見ない。

日本はITの基礎技術は優れているものの、その応用・普及が下手だといわれてきた。「おサイフケータイ」ははやくから開発されていたし、SuicaあるいはPasmoの普及は目覚ましい。これらの基本技術は「FeliCaチップ」というソニーが開発したものだ。それなのに、いまは、AliPayやApple Payの日本上陸に戦々恐々としている。

どこかで政府がIT戦略を誤ったのだろうか。個人間送金を可能にする規制緩和の遅れや、銀行とIT企業の融合が進まなかったのが原因だといわれている。

銀行の人員削減のためには、このような社会のキャッシュレス化は必須。日本では、メガバンクが計画している、銀行発行のデジタル通貨が役割を果たすようになるのか、それとも、AliPayやApple Payなど、他のサービスが普及するのかが、これからの戦いになる。

消費者のキャッシュレスへの誘導、銀行における生産性革命の徹底推進、政府による規制緩和、これらが一体となって急加速しないといけない。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 日本の起業家 BEST100」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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