5. マネジメントは「承認」だけでなく「共感」を
IDEOのティム・ブラウンCEOは、イノベーティブな組織のリーダーに求められる役割の一つに、庭師のような側面があるという。芽を植えるだけでなく、現場がクリエイティブになれる場と道具を与え(土壌を耕し)、組織のポテンシャルを引き出して、芽を育てるということだ。
我々がこれまで協業させていただいた日本企業を振り返ると、現場の皆さんのモチベーションが高く、プロジェクトが非常にうまくいくケースは、マネジメントが社員と一緒に悩んで、共感し、共に新しいことにチャレンジしようという姿勢を持たれていることが多い。先述ののベビー用品会社の社長は、現場のリーダーに「失敗してもいいからどんどん新しいことに挑戦しなさい。失敗してもそれが学びになるし、その失敗の責任は私がとる」と話したという。
またある食品メーカーの社長は、プロジェクトの初期段階で我々のヒアリングに応じた際、新規事業創出に悩む現場の気持ちに寄り添い、「自身もわからなくて悩んでいる」と話してくれた。この話を我々から現場のプロジェクトメンバーにも伝えると、彼らにとてもポジティブな力が湧いてくるのが見て取れた。この瞬間、社長は「承認者」ではなく、「共に悩んで一緒に創り上げる同志」のような存在になったのだろう。
今回ご紹介したのは、あくまでもデザイン思考のエッセンスの一部だが、5つの点を振り返ってみると、共通するのは実践する人間のマインドセットに深く関わっていることである。もちろんプロセスの理解や、実践しやすい環境づくりなどの要素も必要だが、まずは組織のあらゆる階層のメンバーが、心の持ちよう、視点を変えてみることが基本となる。デザイン思考を取り入れようとしている皆さんには、ぜひポストイットを買い込む前に試してみていただきたいと思う。
次回は、「人間中心デザイン」を掲げるIDEOが、「人」について深く知る方法、デザイン・リサーチについて、お話をさせていただく。