ーシェアリングエコノミーでは、ウーバーなどのプラットフォームを運営する会社が多額の手数料利益を得る一方で、運転手などのサービス提供者は収入が少なく不安定になる可能性があるとの懸念があります。このような懸念をどう考えますか?
そういった懸念は当然ですが、シェアリングエコノミーを認めないことは解決策になりません。解決策は、新規ビジネスの創生につながるプラットフォームを政府が推進することです。単なるオンデマンドの労働提供者ではなく、事業主としてビジネスができるプラットフォームが重要です。
例えばエアービーアンドビーとウーバーを比較してみると、ウーバーの運転手はある程度独立しているものの、事業主とは呼び難い。顧客との関係性が薄く、顧客にとって運転手は誰でもいい。プラットフォームが経営判断権を握り、提供者の権限が少ない。全てがプラットフォームによってコントロールされています。
対するエアービーアンドビーは多くの経営判断を提供者に委ねています。信用とブランドをエアービーアンドビーがある程度提供していますが、サービス提供者は事業主として値段を決め、計画を立て、競争相手を見ながら自分の立ち位置を決める。顧客サービスもやる。ユーザーの高評価を集めてブランド力を高め、さらにビジネスを拡大する。プラットフォームによって生まれた事業者と言えるでしょう。これは不平等の是正につながるし、事業主の利益になっています。
政府は、こういったプラットフォームを促進し、提供者に経営判断権がなく事業主になれないサービスのプラットフォームには罰則を設けるべきでしょう。どのようなプラットフォームを推進するのかは、それぞれの社会が選べます。正しいプラットフォームを推進できれば、長期的に見て労働者のためになります。
ー将来の働き方はどのように変わるのでしょうか。
プラットフォーム・モデルと人工知能によるオートメーション・モデル。この二つのモデルによって、今後20年で仕事のあり方は大きく変わるでしょう。ある仕事は人間がやる仕事ではなくなり、ある仕事は人間がやるけれども、オンデマンドでできる仕事になる。
解決法として、所得を均等にするというアイデアが多く提案されています。オートメーションの技術を使う人に対して課税を増やし、雇用機会に恵まれない人々に再分配する。これは所得の再分配の形と言えるでしょう。一番極端な形のユニバーサル・ベーシックインカムでは、全員に毎月同じ金額を支払います。
個人的には、「所得」ではなく「資本」の再分配が好ましいと考えています。
プラットフォーム・モデルでは、プラットフォームが資本を持ちます。ここで言う資本とは、ビジネスを創出し、経営判断を行い、時間や資産や労働力をサービスに換える知識を持っていることです。これらは従来、企業が握っていて、人々は給料を得る被雇用者でした。
正しい解決策は、ある資本は企業が持ち、ある資本は提供者が持つ、という形だと思います。歴史的に不平等が生まれるのは、少数の人が全ての資本を支配する時です。資本を再分配すれば不平等は減り、より安定した社会につながります。
政府がフォーカスすべき政策は、資本の集中を避け、提供者に資本が分配されるようにプラットフォームを促すことです。だから資本もクラウドによって分散される、クラウドベースの資本主義が重要になります。
資本主義によって資本の集中を避けることができるかどうかは、そのデザインにかかっています。全員が小規模な事業主でお互い競争していればいいですが、そこに資本を独り占めする巨大プラットフォームができたなら、政府が介入して規制するのが役目です。
米国議会の委員会でヒアリングの機会がありましたが、25人もの議員から質問を受け、意識の高まりを感じました。日本でも関心を持っている国会議員はいます。私は将来を楽観的に見ています。
アルン・スンドララジャン◎ニューヨーク大学経営大学院(レナード・N・スターン・スクール)情報科学・オペレーション科学・経営科学科教授。シェアリングエコノミーの第一人者として、積極的に著述やメディア活動をしている。