小売業者はアリペイやWeChatペイが中国人旅行者の呼び水になると期待する。世界観光機関によると、中国の旅行者の海外消費額は昨年2610億ドル(約29兆円)に達した。
北京のIT企業に勤める30歳のジュー・コーは、10月に日本を旅行した際、アリペイとWeChatペイで化粧品や炊飯器を買い、6000元(約10万円)以上を使った。ジューは言う。「日本でこれらを使うつもりはなかったけど、店に入ったらアプリの広告が目に入って来た」
アリペイを導入している小売業者は30か国・地域の20万以上に上る。アムステルダムの決済企業Adyenとの提携を最近発表したWeChatペイも13か国で約13万小売業者に導入されている。アリババとテンセントは、現地の決済企業にも積極的に出資する。アントフィナンシャルはタイのAscend Group、インドのPaytm、韓国のカカオペイの株式を保有している。
両社にとって入り込む余地が大きいのは、既存の銀行ネットワークが張り巡らされていない東南アジアだろう。
世界銀行によると、ASEAN諸国の成人でデビットカードを所有しているのはわずか30%。2億6400万人は銀行口座を持っていない。彼らはお金を家に保管し、高利貸しから金を借りる。中国のように電子ウォレットが普及する余地は十分にある。
米国は中国系決済への抵抗が強い。データ安全への懸念が高まる中で、アントフィナンシャルはダラスの決済企業マネーグラム(MoneyGram)を12億ドル(約1300億円)で買収する方針を表明したが、マネーグラムはデリケートな顧客や取引データを所有しているため、対米外国投資委員会(CFIUS)はこの取引が国の安全の脅威にならないか、今も検査している。
テンセントのパートナーのAdyenのウォーレン・ハヤシは、「アムステルダムのデータセンターでWeChatペイの取引データを保管している。テンセントは自身のデータにはアクセスできるが、プラットフォーム上の他のデータにはアクセスできない」と説明した。
ある関係者は「一部の国は、顧客データの安全性が守られるかを心配している。この手の懸念は今後も消えないだろう」と述べた。