ビジネス

2017.12.27

民泊解禁で日本はどうなる? シェアリングエコノミーの第一人者に聞く

アルン・スンドララジャン/ニューヨーク大学経営大学院情報科学・オペレーション科学・経営科学科教授


──日本でシェアリングエコノミーが普及しづらい理由は何でしょうか。

ひとつは、シェアリングエコノミー(が提供するサービスやモノ)のほとんどがもともと完璧ではないことです。(ホテルの部屋に比べて、民泊で提供されるのは)使っていない寝室など、質が一定していません。日本の消費者は完璧で均一な質を当たり前だと思っています。ヨーロッパや米国の消費者はより多様なものを受け入れています。日本は規制緩和に慎重にならざるを得ません。そして、これらのサービスを合法化するのにも長い時間がかかります。

もうひとつの理由は、他のアジアの国と比べて日本は消費者社会が発達している点です。日本ではすでに豊富な消費者経験があり、所有型の消費に慣れている。車を所有している両親世代も祖父母世代も珍しくない。中国や他の東南アジアの国々では、新しく出現した中間層が初めて消費を経験する世代です。これまでの経験がないので、これが彼らにとっての「消費」の形になります。

例えば、中間層になって初めて旅行に行く人たちがいます。初めての旅行に民泊サービスがあれば、素直に使い始められる。日本の消費者はすでに30〜40年にわたって確立されたパターンに慣れていて、行動が変わるのに時間が必要です。米国と中国を比べても、中国の方が圧倒的に早く普及しました。

消費者社会が発達し、確立された消費パターンがあること、質への高い期待と慎重な規制。これらが原因となって、シェアリングエコノミーの普及に日本は時間がかかっていますが、私は現在から2020年のオリンピック開催までに急速に成長すると予想しています。

──消費者社会が発達した経済からシェアリングエコノミーに移行する動機付けは何でしょうか。

ひとつはバラエティが広がること。そうすれば、自分が欲しいものが見つかりやすい。例えば、東京には高い質のタクシーがありますが、ボタンを押すだけでドアツードアで送迎してくれるサービスが冬にはありがたいものです。仕事ではタクシーを使い、夕飯を食べに行く時は安価なオン・デマンド・サービスを使う、という風に選べるようになります。

ホテルに泊まると年2回しか旅行に行けなかった家族も、民泊で安く泊まれれば年3回旅行に行けるようになるかもしれません。バラエティが豊富になれば、総合的により良い消費ができるようになります。

──シェアリングエコノミーは主に都市部で発展していますが、地方に可能性はありますか?

地方で発展するには時間がかかるでしょう。シェアリングエコノミーは人口密度が高いところの方でサービスが成り立ちやすい。また、都市部では他の住人とロビーを共用するなど空間をシェアすることに慣れています。地方が恩恵を得るのは雇用機会でしょう。

先ほど挙げた専門職だけでなく編集やデザイン、簡単なコンピューター・プログラミングなど、これまで地方には雇用機会が少なかった職種も、プラットフォームにアクセスできれば、地方でも働けるようになります。

また、小さな地方都市や町に集客できるチャンスが広がります。巨大ホテルは建てられなくても、民泊を利用した集客が可能になる。京都以外にも魅力的な地域はたくさんありますが、特に外国人観光客には有名ホテルがないと敷居が高い。そういう地域にも観光客を呼べるようになるでしょう。イタリアでは実際に、エアービーアンドビーによって地方に観光客が集まるようになりました。日本では楽天も規制が変わったタイミングで民泊に参入しようとしているようです。
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編集・文=フォーブス ジャパン編集部 写真=小田駿一 取材協力=タトル・モリ エイジェンシー

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