フリーランス編集者


それから二つの転機が訪れました。ひとつは大学時代。四肢麻痺とまではいかないのですが、立っていられない(介護の用語で“立位”がとれない)友人がいて、彼が誕生日祝いのプレゼントで、僕が乗っていたバイクに乗りたいというんです。

サイドカーをつけたハーレーバイクを借りて、彼が着たいというレザーのジャケットを着てもらおうとしたんですが、残念ながら着ることができなかった。障害者用のブランドをつくろうとアパレルに就職したのですが、それはこうした事情があったからです。

──常に社会との接点において、また実際の当事者との間で、思いを巡らせながら実践に向かっていらしたのですね。

ただ、それもなかなかうまくいかなかった。そんな折、祖父と旅に出る機会がありました。かつては旅行にもよくいっていた人なんですが、認知症にがん、肺気腫に糖尿病が重なり動けず、かつ老々介護という状態だったんですね。見かねて、サラリーマンをしながら週末に介護していたんですが、祖父が故郷に一度帰りたい、と。



しかし、どこの旅行会社さんも、お手伝いをしてくださらなかった。じゃあ自分で連れてしまえと、旅行に一緒にいったんです。そうしたら、祖父が見るからに元気になった。

「旅はリハビリになる」という発見をしたのはそのときです。専門的な介護の経験も、旅行事業の知見もありませんでしたが、かねてよりの友人と一緒に極安の部屋を借りて、事業の準備をはじめた。

手取り30万円だったのが3万円まで落ちて、それは大変な日々でしたが、みんなで必死にバイトをして事業資金をため、「しゃらく」を立ち上げた、というわけです。

──並々ならぬ情熱に突き動かされている事業ということがよくわかりました。

「福祉をビジネスに」といっても、「ニーズ」という言葉でくくると、こぼれ落ちてしまうものがあると思っています。そもそも、旅行というのは「必要性」があるものではない。はっきりいって、旅行には行かなくたっていい。それでも、体の自由がきかない高齢者の方にも、旅行にいきたいという思いはある。

つまり、旅行は「ニーズ」ではなくて、「ウォンツ(欲求)」から生まれると思っているんです。だからこそ、お客さんと一緒に24時間の旅路を共にして、おむつも替えればお風呂も一緒に入り、一緒にご飯を食べて同じ部屋で寝る。つまり安全・安心であるということを実感してもらって、また利用したいという商品をつくりたいと考えています。

実際に、8割くらいの利用者の方は、リピーターとしてまた使ってくださいますから。そうしたホスピタリティは、これからも大事にしていきたいですね。

文=宮田文久

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