ビジネス

2018.01.02

老人はなぜ、販売員の「カステラおひとつですか」に怒ったのか?

大西洋(左)、黒川由紀子(右)




大西
:伊勢丹時代に、好みにマッチしたアイテムを勧めてくれる人工知能「SENSY(センシー)」を導入したこともあります。AIでも「野菜売り場はどこですか?」といった簡単な質問には答えることができます。また今では体型診断やカラー診断をもとに、お客様に合ったファッションを勧めるAIサービスもあります。

しかしAIが必ずしも効果的だとは思いません。科学的な分析の結果だとしても、たとえ体にフィットする服がベストな選択肢だとは限らないからです。結局のところ、AIにはまだお客様の潜在的なニーズを読み取ることができないのです。そういう意味でも、店頭の販売員にはより高度なスキルが求められています。

バブル時代などモノが売れた時代では、ブームで火がついた商品をみんなが買っていました。しかし、人によってニーズがバラエティに富んだこれからの時代ではそうはいきません。個人が求めるものをどのように提供するか。そこで小売店が目指すべきなのが、お店と顧客という関係ではなく「パーソン to パーソン」の関係を築き上げること。訪店すること自体に価値がある、あの販売員に会いたいと思ってもらうことが重要になるのです。

黒川:先ほどの高齢者の方たちと若い販売員の関係に戻れば、自分の未来をイメージし、より良い未来をつくるために、若い人たちこそ高齢者や高齢社会について考える必要性があります。認知症の人が増えているといっても、多くの人はいまだに「認知症=徘徊老人」だと思ってしまうのではないでしょうか。しかし、それは重症の場合だけです。軽微な認知症の方は百貨店で買い物をなさるし、スポーツだってします。

こうした状態は、ある意味では良いことなのではないでしょうか。そしてこうした人たちとの付き合い方を考えるということは、人間同士の関係性がより重視される時代になったということでもあります。昔は隠されていたものが、いまは新たな開拓の可能性につながるのかもしれません。

大西:未来の買い物については、消費者と販売員が新たな関係性を結ぶことができれば、そこからこれからの消費社会がより豊かなものになるのかもしれません。とにかく、お客様の潜在的意識にまで耳を傾けることが大切だと考えています。先ほどのカステラの事例だって、接客側が違う言い方をすればまったく違った結果になったかもしれないですしね。今日は貴重なお話、ありがとうございました。

編集=稲垣伸寿 写真=岩沢蘭

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