ビジネス

2018.01.02

老人はなぜ、販売員の「カステラおひとつですか」に怒ったのか?

大西洋(左)、黒川由紀子(右)




人生を「点」ではなく「線」で考える

大西:そういった背景にまで思いを巡らす方法のひとつとして、「回想法」が有効だということでしょうか。

黒川:そうですね。実は、訳もなく感情を爆発させる人はとても少ない。大切なのは、その瞬間の相手を「点」として見るのではなく、過去を含めた長期的な時間の「線」や「面」、さらには「立体」として捉えることなのです。

大西:お客様が店頭で自身の過去を語ることはありません。ですから、相手の過去について仮説を持ってわれわれがコミュニケーションを取る必要があるということですね。そのために大切なのはお客様がいまどのような気持ちなのかを慎重に確認することですが、逆にそれさえできれば大きなロイヤリティになりますね。

黒川:最終的に大切なのは、高齢者の心やからだの変化について知識と想像力を持って相手の気持ちを慮る努力をすることではないでしょうか。

大西:販売する側にもスキルが求められるということですね。逆境でも売上を伸ばしている販売店は、お客様との関係性の深化についてかなり踏み込んで取り組んでいます。そこでは接客の際に、お客様を家族と同じように常に相手の立場に立って考え行動することが重要です。

黒川:特に最近は祖父母以外の高齢者の方と接したことがない若者も多いので、接客中に高齢者の方から突然怒鳴られたりしたら怖いのは当然ですよね。だから、自分の身近な年配者に置き換えることで親近感を持つのは有効です。ポジティブな気持ちで売り場に立たなければ、相手に配慮なんてできませんから。

大西:まさにそのとおりですね。

黒川:販売員にいろいろおっしゃる高齢者の方たちは、裏を返せばお店に対する期待値が非常に高いということでもあるので、店にとってもチャンスです。不満があっても何も言わずに帰ってしまうお客さまはリピーターになり得ないのですが、いろいろ伝えて下さる方は、きちんとお話しすれば繰り返しお店に足を運んで下さるようになるかもしれません。

AIではまだ潜在的ニーズに応えられない

大西:結局、販売員の向き不向きは、どれだけ真摯にお客様に寄り添い、お困りになっていることに貢献できるかどうかなのです。説明の上手さは必ずしも重要ではありません。

いま小売店が目指すべき価値は、2つあると思っています。ひとつは、値段に関わらない絶対的な価値。プロダクトの背景や魅力といった価値が問われる時代になるはずです。もうひとつが、先ほどまで話していた「パーソン to パーソン」によって生み出される価値。元気にしてくれる接客や心を動かしてくれる出会いといった値段に左右されることのない豊かさに、ますます対価が払われるようになるのではないでしょうか。

黒川:まさに未来の消費を見越した価値観ですね。
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編集=稲垣伸寿 写真=岩沢蘭

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